それが、彼の最後の姿だとは思ってもみなかった。
次にアガーテが目にした時、彼はすべてのしがらみを捨てていた。
「……彼に、何をしたの?!」
「何をした?
なんでもない。
奴の本来の姿に戻してやったまでだ」
手始めに破壊されたのは、アガーテがずっと住んでいた離れの屋敷である。
そのあまりにも大きい豹のような『何か』は、獄炎を吐き出す時には全身に真っ赤な光を湛えた。
呆然とするアガーテの視界にヴィオルがチラつかせたもの。
空になった注射器だ。
「ダインスレフから買ったんだ。
『増魔剤』といってな。魔力回路を人為的に肥大させられるものらしい。
元の魔力回路が複雑であればあるほど効果が出る。
その効果の最終形態が“アレ”だ」
すべてを破壊する存在。
『邪なる者』。
「ど、どうしてそんなことを……。
戻せるわよね……?」
ヴィオルは肩を竦める。
――アガーテは真っ青になった。
「嘘……
嘘でしょう?!
貴方、彼をどうする気?!」
「邪魔なものはすべて焼き尽くす。
ティルバの残滓も、やたらと邪魔をしてくる『あの女王』も、全部。全部だ。
そうして最期は自ら派手に散ってもらうとするか。
ハハハ! どこぞの女にムダ金を使うよりもいい買い物だったなぁ!!」
魔力回路は、すべての生命の要。
そこが破壊されてしまえば、辿る末路は――……
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