真っ暗な砂漠の中、馬を走らせる。
ヒスイが駆る馬に乗せられていたハイネは、目の前で上下する鬣を見つめてぼんやりとしていた。

「大丈夫か、ハイネ?」

頭上でヒスイが声をかけてくる。
その心配そうな声音は信じていいのだろうか。
戻ってこない返事に、ヒスイは苦笑した。

「お前、――ワイのこと疑ってんねやろ?」

ハイネは、自分の鼓動が大きく早く打たれているのを感じる。

「ったく、聡い嬢ちゃんやて。
せやけど嘘はド下手くそやな。前から思っとったけど。
ほんまそこ、兄貴そっくりや」

「なっ、なんで……」

咄嗟に周囲を見渡す。
仲間達はそれぞれ等間隔に馬を走らせているが、こちらの声は蹄の音に掻き消されている。
この馬上は、二人だけの空間だ。

「なーに、とって食おうなんざ思わんよ。
けどまぁ、そう思われてもしゃーなし。
ただ、ヒューランを国王にしたい気持ちはホンモノや。
信じる信じないは任せるがな」

これは本音なのか、甘言なのか。
そう必死で考えようとする自分に、ふと我に返った。

(うち、いつからこんなに疑り深くなってもうたんやろ……)

凝り固まってしまった思考回路を憂う。
出会う人すべてを“何のピースか”で測っている自分が嫌になる。

「……どうして、わかったん?」

「見てりゃわかる。最近のお前は計算高すぎる。
初めて会った時は無邪気に原っぱで寝っ転がってたくせにな!
そのけったいな懐中時計が直った辺りからだったか。
お前が見えない“何か”を追いかけ始めたのは」

見えない何か。
誰も不幸にならない未来。

「ハイネ、ワイはお前が結構気に入っとる。
できれば……兄貴が笑ってられる世界で、お前と会ってみたかった」

ぐ、と手綱を握る彼の手に力がこもる。

「さっきの邪なる者。
……ありゃ多分、『兄貴』やと思う」

蹄の音が、頭の中から消えた。




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