執務室に至ると、ヴィオルが待ちわびていた。
窓は締め切られ、照明は机の上の一つのみ。
もう日が暮れてきた。部屋は暗い。
「ダークエルフの里に、ヒューランやヒスイがいるらしい。
里には物資がたんまりだ。情報によれば、そいつはあのクソ女……
ジストから送られたものらしい。
俺はそんな声明を聞いていない。つまり非公式だ。
非公式に他国の反乱分子を煽るような真似……見過ごしていいと思うか?」
くく、とヴィオルは笑っている。
答えなど求めてはいない。もう彼の中では今後辿る道が決まっているのだ。
「メノウ。俺がこの世で最も憎い貴様をどうして生かして手元に置いているか。
憎悪に勝るほど惚れ惚れする力を貴様が持っているからだ。
貴様は騎士などではない。“兵器”だ。
敵を殲滅することに長けた狂人。
先代は愚かな軟弱者だったが、貴様を拾ったという点だけは賞賛に値する」
無言で聞いているメノウの前に立ったヴィオルは、手に持っていた注射器のようなものを薄明りに照らした。
「喜べ。貴様を完全な兵器にする手段を見つけた。
ずいぶんと高くついたぞ。
その分の働きはしてもらわねば」
「……何を、」
言いかけた口が力任せにふさがれ、首筋を晒すように壁に押し付けられる。
「堪えろよ? 死んだらムダ金になる。
里一つ潰すだけでは終わらない……――いいな?」
チク、と疝痛が走る。
――積み重ねてきた彼のすべてが、音を立てて崩れていく。
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