黄金と宝石が溢れる部屋の一室で、その男は財を吟味していた。
「……それで、アガーテの様子は?」
「特に変わりはございません、陛下」
「惜しいな。強情なところだけは好かん」
積み上げられた女性もののドレスを一着手に取り、その男――ヴィオルはそう呟く。
この部屋に無造作に置かれた品々は、受け取りを拒絶され行き場をなくした財宝である。
「何が気に食わぬのか。何故抗うのか。
俺の寵愛に触れたくとも叶わぬ女など大勢いるというのにな」
主の背を監視する騎士達の中の一人に、ヴィオルは嗤った。
「この服は南の貴族を潰した金で紡いだものだ。
奴に似合うと思わないか? ……メノウ」
眉一つ動かさない顔の目の前で、ヴィオルは突然、そのドレスを引き千切った。
「いっそ貴様の前であの女をこうしてやろうか。
奴も諦めがつくのではないか?
“想い人”とやらの前でこの俺に爪の先まで可愛がられればなぁ?」
メノウの隣にいた兵は「ひぇっ」と小さく悲鳴を上げる。
それでも当の本人は無表情を貫く。
「陛下! “例の場所”に動きがあったようです!」
駆け込んできた兵はそう叫ぶ。
ヴィオルは破れたドレスを床へ投げ捨て、土足で踏み越えて部屋を出ていく。
「そろそろ決着の時期だ。
メノウ、後で俺の執務室へ来い。――丸腰でな」
去っていく背中。
温度なく見送る朱の瞳。
傍らの兵がメノウに囁く。
「……何されるかわかったもんじゃないですよ!
逃げた方がいいんじゃないですか?」
(逃げられるわけがないだろう)
何も言わず、メノウは銃が収まるホルスターを外しながら主の後を追う。
まるで機械のように、わずかな躊躇いもなく、ただ忠実に。
「……あの人がもしティルバ様についていたら……
こんなクソみたいな国も、多少はマシになってたんでしょうかね」
「おいおい、余計な話するな!
誰に聞かれてるかわからないぞ……!」
主が雑に荒らした財宝を並べ直す兵達は、どこから巻き上げられたかもわからない輝き達を手に、疲れたような溜息を漏らすのだった。
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