ばっ、と起き上がる。

寝起きとは思えないほど意識がはっきりしていた。
懐中時計を見ると、もうすぐ日が昇る頃である。

ほんの数刻しか眠れなかったが、それどころではない。
ハイネはすぐにベッドから飛び降り、蝋燭の火を灯して小さなテーブルに腰を下ろした。
鞄から紙とペンを取り出し、頭の中を整理する。

旅人の話では、近いうちにこの世界のジストが死ぬという。
病死か、事故死か、他殺か。原因はわからない。
ただ、あの健康が服を着て歩いていそうな女王が今すぐ重篤な病で死ぬ線は薄いだろう。

残る可能性は事故死と他殺だ。
ジストの死を予知して現れるアクロ。
そしてその歪みの結果、ヒューランが死んでしまう未来へ進むこの世界。
となると、ジスト女王の日常が死を運ぶというよりも、国規模の事件が絡む可能性が高い。

(碧の東と赤の国が絡む事件なんて、戦争に決まってる)

何らかの理由でヴィオルがミストルテインに進軍したとしたら。

(順番で言えば、和平派が負けてから、ミストルテインへ進軍するのが王道やけど……)

このタイミングで旅人が警告してきたのだ。
“万策尽きた”とも白状していた。
思ったよりも猶予がないのかもしれない。

(でもなんで、今ヴィオルがミストルテインに行こうとする……?)

何か理由がなければ、戦争とは始まらないものだ。
その理由とは……――

(……ひょっとして、物資の支援がバレて……?)

様々な可能性を殴り書きしたメモを見て、ハイネはその理由の一つに的を絞る。
メモを蝋燭の火で灰と変え、ハイネは再び懐中時計を開いて立ち上がった。

(日の出の頃。今しかない)

隣の部屋で眠っているであろうイザナやシエテ達を起こさぬように、ハイネはそっと小屋を出る。




-245-


≪Back | Next≫


[Top]




Copyright (C) Hikaze All Rights Reserved