長屋の傍の倉庫に、大きな木箱がいくつも積まれていた。
傍らの馬小屋にはミストルテインで調教された馬が待機している。
馬達に干し草を配っていた男が1人、ヒューランに気付いて手を挙げた。

「ヒューラン殿下! ヒスイさん! イザナ姫まで……! おかえりなさい!
見てくださいよ、この物資の数!
馬はこの通り、箱の中には医療品や食料がギッシリです!
他の連中も喜んでますよ!」

「そうか。こちらにミストルテインのアメリ姫がいる。礼は彼女に」

男はアメリの姿を見てパッと笑顔になる。

「まさかアメリ様ご本人まで?!
どうですか、うちの殿下! いい男でしょ!」

ぶっ、とヒスイが噴き出す。

「“その事”は今はまだ保留や。
こっちがハイネ、そっちがシエテとかいう人形。
こいつらもツレや。よろしくしたって」

「人形ってヒドくなーい?! ぶーっ」

賑わいを聞きつけたのか、長屋から数名の野次馬達とダークエルフの女性――ターフェイが現れる。

「戻ったのか、倅。
王都はお前達が発った頃から特に変わった動きはない。
イザナも……無事だったのか」

「ハーイ!
お兄がお迎えきてくれマシタ!
ケガしてたヒトたちはダイジョブですか?」

「あぁ。だいぶ良くなった。
支援物資がなかったら危なかった奴らもいる。
よかったな」

ふむ、とアメリは周りを見回す。

「予想以上にいろいろと枯渇していたようだな。
立て直す助けになれたのなら幸いだが……
ところでヒューラン、和平派の生き残りはあとどれくらいいるのだ?」

「30人いるかいないかくらいだな」



沈黙が流れる。



「さ、さんじゅう……?」

「もちろん俺とヒスイとイザナを入れて、だ」

一行を囲む数人のギャラリー達がニコニコと笑っている。
どこにでもいそうな若者や、恰幅のいい壮年の男。

――およそ兵士とは思えない。

「あ、あの……ヒューラン?
うちが昨日王都歩いただけでも、何十って人数のブランディア兵を見かけたんやけど……」

「……まぁ、至極真っ当な反応だな。
和平派はもう、一般市民から立ち上がった連中くらいしか残っていない。
俺についていたブランディア兵はほとんど伯父上側についたか、あるいは殉職したか……」

「な? 言うたやろ? 和平派は潰されかけとるって」

これだけの人数で、しかもほとんどが一般市民の軍が、あのヴィオルを倒せるのか――……

ハイネは目が回るような感覚に陥る。
ヒューランが討たれれば、赤の国がヴィオルのものになるということに等しい。
土地も、民も、あらゆる富も、すべて。
ヴィオルが実権を握る赤の国を、ハイネはよく知っている。
平和とは程遠い未来だ。
自分の故郷が遠ざかるのももちろんだが、この世界の人に新たな絶望を抱かせてしまうだろう。
それだけは彼女の心が許さない。



「さーて……。
それじゃ、ワイらの最後の財産を数えるとしますかねぇ」

物資の確認を進めるヒューラン達。
そちらは彼らに任せ、活躍の場がなさそうなシエテとイザナを引き取ったハイネは空いた小屋で休むことになった。




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