ダークエルフの里とは、ブランディア王都とつかず離れずの場所にある、古めかしい集落だ。
その歴史は1000年以上も続いている。

ダークエルフ族は、ブランディアという国ができるより前からその地に住む先住民族である。
人間の方が後からやってきたというのに、彼らの横暴な文化によって住処を追われてしまった一族。
かつては数万の人口を有した一族も、住処と人権を奪われ、今では集落に残る数百人の生き残りが最後だ。

古風な文化を重んじるダークエルフだが、決して人間に劣るわけではない。
むしろ、その高い知性と戦闘能力は人間など敵ではなかろう。
同胞を奪った愚かな人間どもを滅ぼすなど容易い。
だが彼らは、武力で争うことの愚かさをはるか昔から知っているのだ。

そんな一族が、ティルバという1人の人間の非業の死を憂い、立ち上がった。
それほどまでに、ティルバはダークエルフにとって失い難い存在だった。



次なる目的地、ダークエルフの里を目指す一行。
ヒューランは道中でこう話した。

「母上は、生まれたその瞬間から伯父上に盾突くために生きてきたような人だった。
伯父上はダークエルフ族をケモノのように扱う。言葉が通じないからだ。
だから、幼いダークエルフを連れ去っては奴隷にしていた。
実は、今のダークエルフの族長であるターフェイ殿も、子供の頃にブランディア兵に攫われたそうだ。
それを見つけて助けたのが、幼い頃の母上だったらしい」

ターフェイにとって、ティルバは命の恩人も同然というわけだ。

「ほう……。故に彼らは君達の肩を持つわけか」

「あぁ。せやけど我々の戦力にはなりたがらん。
土地は貸すがそれ以上は踏み込まんとな。
ターフェイの姉ちゃんは殺る気満々やけど、他の重鎮の賛同が得られんかったらしい」

ヒューランに補足するようにヒスイはそう述べる。
昨日の一件から、ハイネは心のわだかまりを隠すのに精一杯だ。
目先に現れた目的地の遠景を見据えてため息を吐く。



集落の門に、番をする女性が1人。
動物の頭蓋を被った彼女は、野生児のような視力でヒューランの顔を認識すると、大きく手を振った。

「オカエリー!」

「戻った。変わりないか、モルダ殿」

「ナントモナイデース!
ソッチノヒトハ、ナカマデスカー?」

「そうだ。だから通してやってくれ」

モルダと呼ばれた彼女は、満面の笑みでハイネ達を迎え入れる。

「ニモツ、トドイテマース!
オクヘドーゾ!」

荷物、とはミストルテインからの物資だろうか。
促された通り、集落の奥へ進む。




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