「いや~~、美味であった!!
ハイネ、君は素晴らしい手腕を持っているな!!」
夕食を綺麗に平らげたアメリは満足そうに笑っている。
そんな彼女の裾を引っ張り、テントから少し離れた場所へ連れて行く。
「アメリ、ちょっと話……っていうか、聞いて欲しいことがあって」
「ん? なんだね? 悩み事か?
ふはは、何でも言ってみるがいい! 私がすべて解決してやるぞう!!」
「ええと……そこまでは考えなくてええんやけど」
朽ちた倒木に二人で腰かける。
「アメリってさ、ヒスイ兄ちゃんのこと……どう思う?」
「どう? どう、とはどういう?」
「うーん、好きとか嫌いとか?」
「ははん……、さてはこれが“がーるずとーく”というやつか?!」
ガク、とハイネは下を向く。
確かに彼女はそういった年頃の少女らしい事象に興味があるようだが、あいにくとそんなに楽しい話でもない。
ヒューランに、ハイネが知った話を打ち明けるかどうか。
それを、ハイネはアメリの言葉で判断しようとしたのだった。
彼女はこう見えても聡明だ。未来を見通してくれると考えての事である。
「ヒューランは、自分が王様になるために戦っとる。
ヒスイ兄ちゃんはそれに協力してる。
そこまでは、間違いないよね?」
確かめるようなその言葉に、アメリは表情を切り替えた。
やっと真面目に聞く心情になったのだろう。
「もし、もしだよ。
ヒューランが無事に王様になった後……
ヒスイ兄ちゃんが、ヒューランを利用しようとしたらどうなると思う?」
「あいつがヒューランを?
どうしてまた……。一応はあれでも忠臣だと思っていたが」
「ヒスイ兄ちゃん、何か隠しとるみたい。
たぶん、その……。ヒューランを、騙して」
しん、と沈黙が流れた。
「……何か、聞いたのか?
その、君の母上から」
「そんなとこかな。
うちも『まさか』とは思ったんやけど」
「それで、ヒューランが危ないかもしれない、と判断したわけだな?」
うん、と頷く。
アメリはハイネの予感を察したのだろう。
顎に手を当てて脚を組み、砂の地面を見つめる。
「ヒューラン、ヒスイ兄ちゃんの事すごく信頼してると思う。
もしそれがヒスイ兄ちゃんの思惑通りで、でもヒスイ兄ちゃんの中ではヒューランは『駒』でしかなかったとしたら……」
「最悪の場合、ヒューランがヒスイのやつに殺される……という展開も有り得なくはない。
私の騎士道からは想像もつかないが、ブランディア育ちの連中に誉れ高い忠誠がある確証はない。
忠臣が、ある日突然主の背を貫く事だって、ブランディアでは珍しくはないさ」
「やっぱり、この事ヒューランに……」
「いや、待て」
アメリは端的にハイネを止める。
「ヒューランに話したところで、すぐに信じるとは思えない。
そして、この話がヒスイ本人に漏れたらまずい。
ヒューランよりも先に“君が”消されてしまう。
だから、ヒューランに話すのはまだ先だ。
どの道ヴィオル王を倒すまでは、ヒスイもヒューランに尽くすだろう。
時間はまだある」
確かに、ヒューランなら――否、ヒューランでなくとも、出会って日が浅いハイネの言葉より、生まれた時から面倒を見てくれているヒスイを信じるだろう。
そしてアメリに忠告された“自らへの”危険。
もしも本当にヒスイがアガーテの言う通りの男なら、口封じに始末されるに決まっている。
とにかくヴィオルを倒すまでは、ヒスイの考えに従うしかない。
「打ち明けてくれてありがとう、ハイネ。
この事は二人だけの秘密だ。口外しないと約束する。
もし君に危機が迫れば、私は国を率いて君を守ると誓おう。
騎士の名に恥じないように」
お互いの拳をコツンと当てる。
そこには確かな友情を感じた。
物思いに耽っていたヒスイが焚火のもとへと戻る。
そして腰を下ろし、面々を眺めた。
「いいか。明日、ワイらの本拠地へ戻る」
「和平派の根城へか?
それは一体どこにあるのだ?」
「ダークエルフの里だ」
ごくり、と喉が鳴る。
そしてアメリは唸った。
「ダークエルフの里を拠点に……など、意外だな。
彼の民はたいそうな人間嫌いだろう?
人間の……しかも下手をしたら巻き込まれるかもしれない立場で、よく場所を貸そうと思い立ったものだな?」
「母上の影響だ。
俺の母上はダークエルフ族と交流が深かった。
もともとあの一族は義理堅く、誇り高い。
懇意にしていた母上がヴィオル派の卑劣な手で死んだとなれば、黙っていない。
だから、表向きは無関心を装いつつも、俺達和平派を守る皮になってくれている。
ジスト陛下からの支援物資も、残り僅かの同胞も、あの里に集められている」
後はそこにヒューランが舞い戻れば、もう一度戦える。
勝ち目があるかと聞かれれば、断言はできない。
ヴィオル側は大勢の兵を持っている。数だけで言えば、厳しい戦いになるだろう。
それでも、何が何でもヒューランを勝たせて、ヒスイを止める。
そこに恒久の平和があると信じて。
それが、ハイネが故郷へ帰る“近道”だ。
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