王都から少し離れた砂漠でテントを張る。
昼間は灼熱だが、夜はキンと冷え込む。
焚火を熾し、皆で火を囲んだ。

ハイネとシエテが王都の外れを行き来して買い集めてきた食材を並べる。
タマゴや肉、野菜が揃っている。
しばらく考え込み、ハイネは野菜を手にした。

「誰か、ナイフとか持っとらん?
野菜切りたいんやけど」

「俺の剣……は、大きいか。
少し小ぶりの宝剣ならあるが……」

「宝剣でタマネギ切れるかいな!!」

「ミーが魔法で切ってあげるヨー!
みじん切りが得意ネ!」

「原型留めて?!」

「あ、ボクのダガー使いなよ!
ちょっと血がついてるかもしれないけど、隠し味ってことで!」

「罪悪感が隠せへんわ!!」

結局アメリの細剣を借り、おぼつかない手先でハイネは野菜の下処理を行う。

「驚いたな、君は料理が得意なのかね?」

「ん~、たまに作るくらい。
オムレツだよ。うちの得意料理!」

そして好物でもある。
昔、よく父にねだって作ってもらっていた。
その思い出に浸りたくて、旅に出て以来初めて『作ろう』と思い立ったのだった。



焚火を利用して夕食を作っている間、ヒスイだけは輪から外れた場所にいる。
こちらに背を向け、一人で何か考え事をしているようである。
夕方からずっとあの調子だ。

「ヒスイ兄ちゃん、どうしたんかな」

「……メノウの事でも考えているのだろう。
しばらく顔を合わせていないから、今日お前とメノウが会ったと聞いて、何か思うところがあるのかもしれない」

ヒューランはそう言って、向こうのヒスイの背中に目をやる。
その横顔を、ハイネは複雑な気持ちで見つめた。



もしアガーテの話が本当なら、すぐにでもヒューランに教えなければいけない。

だが、それは果たして正しい選択なのだろうか。

王家や貴族が嫌いなヒスイが王位を狙って何をするのか。
彼が成す未来は、身分の垣根がない、真に平等な世界となり得るのか。
もしそうだとしたら、ヒスイのシナリオ通りに動いた方がいいのかもしれない。
でも、ヒスイまでもが権力に溺れてしまったら、混沌はなくなるどころか、より一層深くなってしまう。

そして、いずれにせよ、その未来にヒューランは“いない”。

「……ん、うまいな」

ハイネが作ったオムレツを一口食べ、ヒューランは呟いた。
少し微笑んだ彼の優しい横顔を見ていると、真実を告げるべきか否か、よくわからなくなった。




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