前の世界では思わず文句を連ねたくなるほど似ていたものだが、“ここ”のメノウは少し様子が違う。
否、見た目は正にハイネの父のそれだ。とはいえ、髪は短く、オッドアイを隠していない。
更に言えば、その表情には一切の色がない。
父こそ“人形”のようだ、とハイネはぼんやりと考える。
「メノウ、その子を見逃してあげて。
私が招き入れてしまったの。
オアシスから来た薬売りの子よ」
ハイネは一瞬きょとんとしたが、上でアガーテが手に持って振っているハンカチを見、そして自分の鞄に目をやる。
薬を調合するための小さなすり鉢が覗いていた。ハイネがいつも持ち歩いている相棒だ。
「薬売り……?
錬金術士か」
「そ、そーです! まだ新米やけど!
だから怪しい者じゃありませんっ!」
「ホムンクルスを連れ歩くなんざ、凡人とは思えんが」
「こ、これはちょっと、ええと、師匠から借りた子で!
うちの護衛なんです!」
「……ふうん」
納得したのか、詮索しても無駄だと思ったのか、メノウは手に持つ銃をホルスターに収めた。
ハイネはようやくホッと胸をなでおろす。
安心のあまり、その場にへたり込んでしまった。
「……用がないなら、どっか行け。
さっき一発撃ったからな。すぐに他の連中が来るぞ。
その木偶の坊を連れてさっさと失せろ」
「あ、待って……!」
引き留める声は届かない。
メノウはそのまま背を向けて去ってしまった。
「ごめんなさい、ハイネ。
怖かったでしょう?」
アガーテが呼びかけてくる。
はは、と乾いた笑いを漏らしつつ、相変わらず倒れたままのシエテの上半身を引っ張り上げる。
人間よりは軽いようだが、それでもハイネには重労働である。
「う、うちもう行くわ!
じゃあね、アガーテさん!」
地面にシエテを引きずる跡をつけながら、ハイネは屋敷から遠ざかった。
そのすぐ後に、他のブランディア兵がワラワラと集まってくる。
「……ハンカチ、返しそびれちゃったわ」
騒がしくなってきた外から逃れるように、アガーテは窓を閉めた。
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