赤の国、ブランディア。
相変わらずの砂漠地帯に鎮座する国。
富や名声、そして大勢の嘆きが入り乱れる混沌の王都。
夕暮れ時に、ハイネとシエテは二人で街道を行く。

傍目から見れば、まだ未成年と思しき男女二人だ。
とりわけシエテは人間離れした顔立ちをしているため、何やら怪しげな男達が数人、二人を遠目に見ながら歩を合わせているのを感じる。
そう、奴隷商人だ。

王都はそれなりに財産を持ち合わせた者が行き交うが、小柄な少年少女を狙って人攫いが頻発する。
容姿が整った者は、富裕層のコレクションとして高く売れるのだ。

戦闘力があって頼りになるヒスイやヒューランはもちろん王都に入れるわけもなく、イザナやアメリも目立ちすぎる。
ゆえに今、ハイネはシエテと二人なのである。
シエテの頓狂な思考回路で奴隷の概念を理解してくれるのかはわからなかったが、彼の袖を引っ張り「付けられている」と小声で忠告する。
すると彼はニヤリと笑った。

「だーいじょーぶだよ。近づいてきたらボクがコロしてあげるから。
ハイネのことは守ってあげるから、心配しなくていーよ」

このような大衆の面前で殺人を犯されても、それはそれで困る。
だが思ったよりは警戒してくれているらしいと気付き、ホッとした。

「ちょっと前から思ってたけど、なんでシエテはうちの事そんなに気にするん?
魔力がおいしそうだから……?」

「んー、半分正解?」

「言っとくけど、食べさせる?とかは無理やからな!」

「わかってるよー。ボクも別に魔力食べたいわけじゃないもん」

そうなの?と首を傾げると、シエテはヘラリと笑う。

「ボクが『おいしそうだな』って思った魔力のヒトって、いいヒトなんだよ。
優しいからボクをイジメない。だから仲良くしたいってわけ」

「じゃあ、ヒスイ兄ちゃんの事、まずそうって言ったのは……」

「あいつとあんまり仲良くしない方がいーと思うよ。
ボクもよくわかんないけど。チョッカンってやつ?」

いつも軽い調子で笑っているヒスイに、何か秘めたる事情でもあるのだろうか。
今のハイネにはまだわからないのだった。



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