「あ~ぁ、参ったなぁ殿下?
お前が負けると白の国が潰しにくるで。
ほんまに『赤の国』がなくなってまうわ」
「そして行き着く先は碧の国との全面戦争か……?
あぁっ、恐ろしい!!
何が何でも死なれては困るぞ、ヒューラン!!」
「わ、わかっている」
一行は南西へと向かう。
いよいよ赤の国に帰還する時がきた。
ジストからの援助もそろそろ届きつつある頃合いだろう。
後は旗印であるヒューランが戻れば、残り少ない和平派の戦士達も士気を取り戻せるはずだ。
日が暮れかかったところで、見晴らしのいい場所にテントを張る。
今夜は野営だ。
火を熾してその周りを囲み、さて、とヒスイはハイネに向き合う。
「ハイネをどう使うかってとこや。
まずはアガーテ様と会えるように手配する」
ドキ、とハイネの心臓が跳ねる。
ついに母親との対面だ。写真でしか知らない存在に、果たしてどこまでの感情を抱けるだろう。
「うち……何話せば……?」
「なんのこっちゃない。
お前が別の世界で生まれた兄貴とアガーテ様の子供だってのを教えりゃえぇ。
アガーテ様は……今でもずっと兄貴に執心や。
どこかの世界では一緒になれたと知りゃあ、アガーテ様が一歩踏み出せる。
兄貴をこっちにつかせられるよう力になってくれるはずや」
今のアガーテは、ヴィオルの妻ではあるが、ほぼ幽閉されている状態らしい。
メノウを想いながらも、もう諦めかけている。
そこに可能性を示す事で、アガーテにもう一度立ち上がってもらおうというのだった。
「……アガーテ殿は、昔はとても凛々しい女性だった。
伯父上はアガーテ殿に陶酔しているがゆえに、彼女が望めば何でも与えたそうだ。
だが生憎と、アガーテ殿は富や名声よりも平和を愛した。
しかも、後にアガーテ殿が本当に愛していたのはヒスイの兄……メノウだったと公になった。
その頃から、伯父上はおかしくなってしまったんだ。
アガーテ殿を閉じ込め、他人との接触をすべて遮断した。
俺も、最後にアガーテ殿の顔を見たのは、一体いつだったか……」
「……そんな状態なのに、ハイネと彼女を会わせる事ができるのか?」
アメリの疑問に、ガク、とヒスイは項垂れる。
「そう。そこなんよ。どこに閉じ込められとるかもわからん」
「はぁ~?! おい、ヒスイ! そんな考えなしでハイネを危険に晒そうとしていたのかねっ?!」
「あ! じゃあボクが探してあげるよ! そのアガーテって人!」
シエテの挙手に、一同は目を点にする。
「オゥ、それはキケンですネ?
ミーが歌ってミンナをスヤスヤさせちゃいまショか?」
「いや、イザナ……。お前は完全に“こっち側”なんだから、そんな事をしたら伯父上にすぐ捕まる」
「ンン……ざんねんデスね~……」
しゅん、と眉尻を下げるイザナはさておき、シエテに視線が集まる。
「君が攪乱してアガーテ殿を探すとでも言うのか?」
「アガーテって、ハイネのママなんでしょ?
だったらハイネと同じニオイがするじゃん。
ボク、魔力のニオイってすぐわかるんだぁ!」
そういえば、彼がハイネを襲った時にそんな事を言っていたか。
『おいしそうな香り』だと。
「ハイネのニオイってさ、すっごいわかりやすいんだよね。
甘ったるくてお菓子みたいなんだ」
くんくん、と嗅いでくるシエテに、ハイネは「ヒィ」と縮み上がる。
「ま、魔力のニオイとか気にした事ないわ……。
うちそんな匂うん……?」
「うん!
ちなみにヒスイは苦そうなニオイだからめっちゃまずそう」
「じゃかぁしいわボケ!!」
「いやそこ、怒るのか。お前……」
ともあれ、シエテの嗅覚に頼るというなんとも原始的な方法により、アガーテ捜索が決まったのだった。
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