聖都アルマツィア。
宮殿の玉座にはルベラが座っている。

実父も、すべての弟達をも屠った果てに掴んだ地位。
それだけでは留まらず、世界さえも掌握したいと望む。

だが碧の国という存在が野望を打ち砕いてしまった。
連合国とはいえ、すでにその力はアルマツィアを凌駕している。
碧の国がある限り、白の国の世界統一は夢のまた夢である。



用途を模索していた赤の国の姫も奪われ、ルベラはほとんど投げやりになっていた。
後はもう、財を好きに使って余生を送ってやろうかとも考えるほどに。

そんな彼のもとを訪ねたのは、先の姫の兄、ヒューラン王子だった。
妹を返還するよう求める年若い王子を鼻で笑う。



「甘いな、若造。
身内に振り回されるようでは王など務まらないぞ?」

内に闘争心を燃やしているような鋭い深緋の目が見据えてくる。
血の繋がりという鎖をすべて断ち切った男の、深淵のような瞳。

「もちろん、イザナを保護していただいた御恩は忘れておりません。
こちらとしても相応の対価をお支払いしたく、馳せ参じました」

ヒューランは例の地図を差し出す。
控えの兵がそれを受け取り、ルベラに捧げた。
巻かれた紙をスルリと引き伸ばして眺める彼は、先程までの嘲笑う表情が無へと変わる。

「……どういう事だ?」

「『世界地図』です。少々古いものですが、そこにはかつての5ヶ国の姿が記されています」

「こんなものを寄越して、俺に世界征服でもしろというのか?」

「……ルベラ様は、存じておりませんか。
我が国も、そして碧の国も、その地図を“持っている”」

ヒューランは薄く笑った。



“ルベラを騙す”。

そんな事ができるのか、ハイネは不安だった。
だがヒスイは賭けに出たのだ。

「お宅が遊び呆けとる間に、赤の国も碧の国も世界地図を手にしていた……となりゃあルベラも受け取らざるを得ない。
たとえそれが嘘八百でも無視はできん。
わざわざへりくだる必要なんざない。逆にワイらが“脅す”んよ。
碧の国と赤の国が万が一にも手を組めば、白の国に勝ち目はない。
ちょうどアメリ姫もおる。ヒューランとアメリ姫が仲良くルベラの前に立ってみぃ。
いつでもお宅を潰せるで、っつう威嚇になる。
となりゃあ、たとえ世界地図を手にしたところで、ルベラは考えなしに侵略はできん。返り討ちに合う可能性も否めないからな。
ってなわけで、イザナを取り戻す件と当面の侵略の牽制が同時にできる」

「ヒスイ……君は本当に狡猾な奴だな……?」

「がはは! 味方につけといて正解やろ?」

――以上が、経緯である。



そして実際に、ルベラはその策に嵌った。
地図とヒューランを交互に見やり、フン、と笑う。

「存外、強気できたな。若造。
なかなか気に入った。いいだろう。乗ってやる。
退屈していたところだ。お前の国がどちらに傾くか、見物させてもらおう。
もしお前が途中で死ぬような事があれば、俺がその屍を踏みに行ってやる。
俺をコケにしてくれるなよ、青二才」

逆に牽制されたようにも思える。
ヒューランはヒヤリと嫌な汗を感じつつも、首を垂れて宮殿を後にした。



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