『あぁ、どうなるかと思った。
まさかラリマーさんがいらっしゃるなんて』
「カイヤ先生が鍵かけ忘れてどっか行っちゃったのがアカンやろ」
『それは……まぁ……猛省ですけど』
それで、と改めて声をかけてくる。
『私に何か報告でもありましたか?』
「うん。それと、聞きたい事も」
まずは学会についてを語った。
こちらの世界のレムリアは、人間を媒体に『邪なる者』の量産に傾倒しているという事実。
ハイネが碧の国の東で対峙した魔物も、クレイズが堕ちた姿だった。
『……キナ臭いですね。
人工的に邪なる者を造るだなんて』
「レムリアさんが言うには、いろんな世界の『うち』を誘惑するための道具なんやて。
うちが持ってる世界の情報と引き換えに、次の世界に渡るための魔力をあげるって」
『ま、まさかその話に乗ったりなど……』
「するわけないやろ!!」
ホッ、と安心した吐息が聞こえる。
『そう、邪なる者についてなのですが。
ちょっと当事者に話を聞く事ができたので、共有します』
「と、当事者?!」
『そこは気にせず。
……『彼』曰く、自分を呼ぶ声で正気を取り戻したそうなんです。
ヒトを媒体にした邪なる者なら、ひょっとしたら説得が叶うのかもしれません』
「……そうだ、そういえばクレイズ先生も、うちが先生の事呼んだら、気付いてくれた……」
『案外、見た目ほど理性のない生命体というわけでもないのかも、ですね』
言葉で救えるのならば、それ以上の事はない。
宝剣の力に頼りすぎるとヒューランが危ないだろう。
これは有力な情報だ。
次に尋ねるものといえば、ルベラについてだ。
「カイヤ先生って、ルベラって人知っとる?」
『確か先代教皇の長男……でしたか。
一度だけ対面した事があります。
とても攻撃的な人ですよ。こっちの世界にはもういませんけど……』
「『ここ』の教皇はそのルベラって人なんよ。
いろいろあって明日会いに行くんやけど……
やっぱ、いい人ではないみたいやね」
『えぇ。十分警戒してください。
特に、アナタが他の世界から来ただなんて知ったら、一体どんな手を使ってくるか』
ヒューランにも指摘された通り、ハイネ自身は一般人のつもりでも、この世界の人々から見れば異質な存在なのだ。
改めて気を引き締め、頷く。
『そう、実はハイネさんのおかげで、父の――クレイズ博士の病因を突き止められそうなんです。
大きな進歩ですよ。6年もかかりましたから。
本当に、ありがとうございます、ハイネさん』
「へへ。任せといてーな。
クレイズ先生を助ける方法だって、ゼッタイ見つけたるから!」
教え子の頼もしい言葉。
なんだか懐かしい、とカイヤは笑ったのだった。
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