ハイネは今、聖都アルマツィアの外れにある宿屋にいる。
明日はルベラ教皇との対面だ。
謁見に向けて話し合いをしているヒューラン達に断りを入れ、個室にこもってカイヤに連絡したのだ。
ルベラがどんな人物か聞こうとしたのだが、予想外の人物の登場に少々取り乱した。

改めて連絡しようと思ったが、ふと、ラリマーは『ヒスイ』を知っているかもしれない、と思いつく。

「リマ姉ちゃん、ちょっと聞いていい?
おとんの事……なんだけど」

『えぇ、いいわよ。なぁに?』

「おとん……弟いたってほんま?」

しばらく静まり返った。
ごくり、と喉を鳴らして返事を待っていると、ふう、と小さな溜息が聞こえてきた。

『ハイネちゃんって、お父さんがどんな子供だったかって知ってる?』

「いや……全然知らん。話してくれんくて」

『あまり楽しい話じゃないんだけど。
娘のあなたに聞かせたくないと思ったくらいのものなんでしょうから。
……でも、ハイネちゃんが聞きたいって言うなら、私が知っている限りの事は話すわ』

「うん、お願い」

その時、ようやく父親の過去を知った。



奴隷として生き、救い上げてくれた王家に忠誠を誓い、それでも全てを捨てて妻と共に歩む事を決めた人生。
その奴隷だったという時代に、『ヒスイ』の存在があった。

『ブランディアの闘技大会、知ってるでしょ?
アレに兄弟揃って出されたそうなの。
その戦いの最中、メノウの弟……ヒスイ君は殺されてしまったんだって。12歳だったらしいわ。
明るくて喧嘩っ早くて、まるで正反対の性格だったって言ってたわね。
私が聞いたのはそれだけ。メノウ自身も、ヒスイ君に関してはあまり話したくなかったみたい。
よっぽどつらかったんじゃないかしら』

父がひた隠しにしていた『弟』。
もしも健在なら、元の世界に帰ったら会いに行きたいと思っていたが、叶わないようだ。
こうして他の世界に渡る機会がなかったら、永遠に知る事はなかったかもしれない存在。

――今は、壁一枚向こうで確かに生きているというのに。

「……そっか。おおきに。聞けてよかったわ」

『けど、どうしてまた?
一体どうやってヒスイ君の事を知ったの?』

「ま、まぁいろいろとあるんよ、こっちも!」

誤魔化すように笑うと、聞き慣れた声の絶叫が遠くで聞こえた。

『ちょ……ラリマーさん!
何勝手にその機械いじって……!』

『あらぁ、ごめんなさい!
カイヤちゃんに会いに来たんだけどいなかったから』

『しかも通信……っ!』

『ハイネちゃんとお喋りできたわよ!
すごいわね、コレ』

『っだ――!! 精密機械なんだから無断でベタベタ触らないでくださいっっ!!
もしもしハイネさん?! そちら変わりありません?!』

「だ、大丈夫やで! 順調!」

そうですか、と脱力した返事の後、カイヤはラリマーをこっぴどく叱った。
オホホ、と悪びれもなく笑うラリマーは、「じゃあまたね♪」と一言ハイネに呼びかけ、去っていったようだ。



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