ハイネの世界、青の国の魔法学校。
気まぐれにそこを訪ねたラリマーが、受付の言葉に首を傾げる。

「ハイネさんは現在、休学中です。
詳しい事はこちらも把握していないのですが……」

「休学……?
一体いつからよ?」

「3、4ヵ月ほどになると思います」

養母としてハイネの保護者を務めるラリマーだが、そんな話は当然聞いていない。

「カイヤ・レーゲン教授を訪ねられては?
ハイネさんのお師匠だそうですから」

「そうね。そうするわ。ありがと」

受付で来客の印であるバッジを受け取り、ラリマーは校内の地図を見ながらカイヤの研究室へ向かう。



目的地に辿り着き、その扉を叩いてみる。しかし返事はない。
そっと取っ手に触れてみると、あっさりと扉が開いた。
中を覗き込むが、誰もいない。

「ごめんくださ〜い?
カイヤちゃんは留守?」

やはり返答はなかった。
雑然とした室内をゆっくり見渡してから、ラリマーはちゃっかりと足を踏み入れてみた。



窓際の机の上に置かれた機械――蓄音機のようなもの――の一部が点滅している。
音楽を聴く趣味があるのねぇ、などと呑気に考えながら近くのボタンを押してみた。

『――あ、やっと繋がった! もしもーし! カイヤ先生? うちやけど』

「……ハイネちゃん?!」

一瞬の沈黙。
その後に「えーっ?!」と驚いた声を拾った。

『なっ……その声、リマ姉ちゃん?!』

「え、えぇ、そうだけど。
仕事で青の国に来たものだから、ついでにハイネちゃんの顔を見て行こうと思って。
そしたら休学だって言うじゃない?!
もう私、混乱しちゃって。
それでカイヤちゃんの研究室に来たけど……」

『え、カイヤ先生そこにおらんの?』

「いないみたいね。鍵が開いてたから、つい入っちゃったけど」

『あぁもう、カイヤ先生ってば、まーたうっかりしとる〜……』

――そこにハイネ本人がいないのに、声がする。
録音でもないようだが、一体どうなっているのか。
噂に聞く伝導の魔法に近しいもの……なのかもしれない、というところまでしかラリマーにはわからなかった。

「それで、どうなっちゃってるの、いろいろと。
ハイネちゃん、今どこにいるの?
学校お休みしてるってホント?」

『あー、うん、そう!
ちょっと、研究の一環で遠くに来てるっていうか……。
しばらくはかかりそう。でも安心して、ゼッタイ学校には戻るから!』

「なんだ、そういう事。ビックリしちゃったわ。
でも元気そうで何より。
どう? 楽しい?」

『えぇと、ひとまずは……?』

あらそう、と微笑むラリマー。
全く動じないその姿勢に、ハイネはとりあえず安堵した。



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