ハイネは駆け出した。
泣きながら、その銃弾を放った人物に飛びついた。
彼女を抱きとめた腕――ヒスイは、照準をレムリアに定める。
「この下衆共が!
こんなコマい娘脅して、正気か?!」
「コマい言うなぁ……」
涙声で不服を訴えるが、安堵で今にも足の力が抜けそうだった。
「……シエテ、これは一体どういうことですか」
「あっ、“じいちゃん”!
ゴメンゴメン、ボクさぁ~、ここ飽きちゃって。
だからハイネ達と一緒に行くことにしたんだ!」
シエテが祖父と呼ぶのは、どうやらクラインのことのようだ。
そんな言葉とは無縁そうな若い容姿であることが謎だが、今はそれどころではない。
「レム、君は――!」
アメリはギリ、と歯を鳴らす。
しかし小さな主の内に渦巻く感情など取るに足らないとばかりに、レムリアは目を細めたのだった。
「まさか貴女が“彼女”と行動を共にするとは……。
誤算でしたが、これも一興。
『狂った箱庭』では正気である事の方が異常ですから」
それはミストルテイン城の事か。
アメリは震える右手が剣の柄を掴もうとするのを左手で必死に抑えている。
「それよりも。クライン、自分の人形くらいは服従させられないのですか?」
その瞳はシエテを見た。
クラインは肩を竦める。
「所長、“あの献体”はもう……」
「なかなか無慈悲な“おじいさん”ですね。
まぁいいでしょう」
レムリアはカチ、と手に持つ何かを押す。
その途端、周辺で唸り声を漏らしていた化け物が牢から静かに出てきた。
「おう、こいつはやべぇぞ殿下!!」
「く、全部倒して……」
「そ、それは無理だろう!!
いくらその剣があっても!!」
「戦うのダメダメね~。
じゃあね、ミーががんばっちゃおカナ?」
イザナは、すうっ、と深呼吸を一つ。
――その唇から、不思議な旋律の歌が紡がれた。
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