どれくらい走ったのだろう。
ハイネがゆっくり目を開くと、彼女が身を預ける大きい背中はいまだに走り続けていた。
懐かしい温度を感じた気がする。

「おと……」

「気付いたなら自分の足で走ってくれんか?!
ワイかてそろそろ限界やぞ!!」

はっ、と起き上がると、そこは泥の道だった。
黒の国に来る時に通った道だ。

「あぁ、すまないハイネ、地図を借りている」

「あはは~~!!
ボク走るの大好き!!
なんでみんなそんなに疲れてんの?」

「私は体力には自信があるがっ!! さすがにっ!!
国を数刻で横断するほどの脚力はっ!! ないっ!!」

「ミーももう走れないネ~!!
歌いながら走るなんて、お兄はキチクだヨ!!」

「わ、悪かった。
――追手はもういないみたいだ」

ゆるゆると減速し、やがて立ち止まる。
ヒスイはハイネを背から降ろした体勢のまま動けなくなっていた。

「あ、アカン。こんな走ったの、城にいた頃以来やで……。ぜぇ、ぜぇ……」

「なんだ、この程度で限界か?
お前も年だなヒスイ」

「ケロっとしよってからに!!
お前がハイネ背負って走ればよかったやんけ!!」

聞けば、イザナの歌でハイネは意識を失ってしまったらしい。
置き去りにせず助け出してくれた皆に感謝の気持ちが溢れる。

「おおきに、ヒスイ兄ちゃん……。
皆も助けてくれて、ほんまに……」

「いや、礼を言うのは俺の方だ、ハイネ。
……イザナを庇ってくれたんだってな。ありがとう」

「アリガトウなのヨ!!」

「ハイネ、ボクだよ!
覚えてる?」

「え、えぇ?!
シエテがなんでここにおんの?!」

「私も不満だが、仕方なかったのだ。
君を救うには、こいつを利用せねばならなかった」

泥だらけの道の真ん中で、シエテは両手を広げて体を伸ばす。

「あ~、これが自由ってやつ!! サイコー!!
ね、キミらこれからどこ行くの?」

「ひとまず、白の国だ。
ルベラ殿と会って、イザナの保護を感謝せねば……」

「ミー、もうあのヒトと会いたくないネー。
あのヒトはー……そう……Ukoyruob」

「なんて?」

「野蛮とか乱暴とか、そう言いたいんだろう。
……だが、このままイザナをブランディアへ連れ帰るのは、恩知らずというものだ。
平和的解決は望めないかもしれないが……行くしかない」

「ハイネもナイフくらい持っといた方がええんちゃうか。
ルベラっつったら、そらもうケダモノみたいな男やで」

うう、とハイネは身を縮める。

「――ハイネ、お前はお前の旅をしてもいい。
俺達についてくると、かなりの危険を伴う」

「しかしヒューラン!!
あの学会の連中を見ただろう!!
ハイネ1人では、すぐにまた捕まってしまうぞ!!
ここは私が……――」

「う、うちも!
……連れてって、ほしい。
その、――ブランディアに」

「ハイネ、お前まさか……」

「……い、いいよ。
うち、アガーテって人とか、ヒスイ兄ちゃんの兄ちゃんとかに、会っても」

恐る恐る顔を上げてみると、心底嬉しそうなヒスイがいた。

「は、ハイネ~~~~!!!」

「ばっ!! やめてーな!!
そないくっつかんでや!!」

「おおおお~!! ブランディアの希望や~~!!
任せろ、ワイが絶対守ってやっからな!!」

「ヒスイ、いい加減にしろ。
ハイネが嫌がっているだろう」

「がっはっは!!
焼いたか? ん? んん??」

「喧しい。もう行くぞ、ほら」

少々機嫌を損ねた風のヒューランはさっさと歩きだす。
ハイネ達は大慌てでその後を追いかけることになったのだった。




-221-


≪Back


[Top]




Copyright (C) Hikaze All Rights Reserved