「ここはどこだ?」
目が覚めたヒューランの開口一番がそれだった。
「ったぁー!!
あいつら本気でブン殴りやがったなクソッ!!」
「たかだか門番ごときに殴られて気絶するなど、君はそれでもヒューランの護衛なのかね?!
っくぅ~!! 私も派手に殴られた!! タンコブができてしまったではないか!!」
起き上がるなり喧しく罵りあう自らの従者と王女に「元気そうだな」と安堵し、ヒューランは鉄格子の向こうを見た。
――誰かがいる。
「おい、お前達、少し黙ってくれ。
……そこに誰かいるな?」
「いるよー。ボクボク!!」
シエテだった。
牢の前で胡坐をかいている。
「き、貴様はハイネを襲った誘拐犯!!
おのれ、成敗……」
「このガキァ!! よくもワイらをハメたな?!」
なはは、と気楽に笑うシエテだが、ずい、と顔を鉄格子の間から突っ込んでくる。
いちいち距離が近い少年だ。
「ねぇキミらさ、ボクと取引しない?」
「はァ?!
誰が手前なんぞと……」
「ボクがここからキミらを出してあげる。
だからボクをここから出して、一緒につれてってよ」
「ここから?
この、学会からか?」
「そ。
ボクねぇ~、ここで生まれてここで育ってここで仕事してるんだけどぉ~、飽きちゃったんだよね☆」
ヒューランの手に、シエテを斬った時の感触が蘇る。
血を流さない人形のような少年。おそらく彼はただのヒトではない。
そんな者を連れ歩けと?
それを聞いたアメリはあからさまに不服そうに眉をひそめた。
「ふんっ! 他を当たることだな!
誘拐犯と旅をするなんて、私はごめんだぞ!!
第一、君はハイネを危険な目に合わせたではないか!!」
「ハイネなら、今めっちゃやばいよ。
ボクの“じいちゃん”に殺されそ~ってカンジ」
「は?」
思わずヒューランが鉄格子を掴んだ。
わかりやすい反応だなぁと彼の従者は傍らで半笑いである。
「どういうことだ?
お前の祖父が誰かは知らないが、ハイネは学会に招かれたんだ。
なのに危険だというのか?」
「そーそー。
ここのいちばーんエライ人がハイネと取引したかったんだけど、ハイネが断っちゃったみたい。
だからぁ~そのぉ~なんだっけぇ~?
……あ、“クチフウジ”!!」
ガタン、とヒューランが立ち上がった。
「致し方あるまい。
誘拐犯、お前の望みは汲んでやる。
今すぐここから出してくれ」
「ぐうっ!! 私としても甚だ心外だがハイネのため……っ!!」
「いや、待て、待てお前ら。
おいガキ、ここにはイザナ姫もおるはずやぞ。
そいつも解放したら、乗ったる」
「えぇー?!
これってボクの方がなんか損じゃない~?!」
「ワイらをお前がここから出して、お前をワイらがここから出す!
そのあとワイらと来たいっちゅーんなら、なんかもう1つ提案してくれんとなぁ?」
こういう口先の術についてはヒューランも従者を認めざるを得ないというものだ。
ぶう、と頬を膨らませたシエテだが、身軽に立ち上がってニカリと笑った。
「いーよ。じゃ、そゆことで。
キミらちょっと下がって~」
何をしだすかと思えば、シエテは鉄格子を両手でつかみ、勢いよく手前に引っ張った。
バキィ、と派手な音を立てて鉄格子が外れる。
「はい、開いたよ!!」
「……私はてっきり鍵を使って優雅に脱出するものだと思っていたぞ?」
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