「いっ……つぅぅぅ……!!」

目が覚めると同時に頭に鈍痛が走る。
倦怠感に苛まれながら体を起こすと、どうやらそこは牢の中のようだった。

「ここは……」

「気付いたネー!!
ダイジョブ? ダイジョばない?」

真後ろから女性の声。
驚いて振り返ると、そこには褐色肌で焦げ茶の髪をした美しい少女が座っていた。

――あれ、この子……

「やっとお目覚め?
もう半日経つわよ」

「お怪我はありませんかー?!
目立つ傷はベティが治したですが……」

「リマ姉ちゃんに……ベティ?!」

ん?と首を傾げる緑髪の女性と金髪の少女。
そう。まさにあのラリマー本人と、前の世界で出会ったベルベティそっくりの少女だ。

「あ、ごめん、ちょっと知り合いに似てて……」

「変な子。けど、いいわね、“リマ”って。
うふふ、今度いい男見つけたらそう呼んでもらお♪
というわけで、私はラリマー。女傭兵よ」

「ハァーイ!
ミーはイザナだヨ!!
赤の国のー、Emih!!」

「え……なんて?」

「この子、古代語ばっかり喋るのよ~。
たぶんお姫様って言いたいんじゃないかしら」

――ダークエルフ訛りが酷くて言葉もうまく……

「イザナ!
君がイザナ?!
ヒューランの妹の!!」

「オォー、ひゅーらん、ミーのお兄!!
お兄のコト知っとるかー??」

「知っとるも何も!
うちはヒューランと一緒にイザナを助けに来て……」

「それで捕まっちゃったですか?」

ベティの言葉に、はい……、とすごすご頷く。



予想通り、ここには人攫いに合った女性達が押し込められていた。
ところが1人足りない。

「あぁ、ティファニーのことかしら。
あの子は連れていかれちゃったわ」

「ど、どこに!?」

「さぁ……。
何日も戻ってこないところから察するに、もう……」

間に合わなかった、ということだろうか。
ハイネは背筋が凍る気配を感じる。

「つ、連れて行かれるとどうなるん……?」

「バケモノにされちゃうんですよぉ!!
黒くておっきくて、吠えることしかできないモンスターですぅ!!
あぁ、恐ろしや……。ベティの死に様が魔物だなんて、聖女のお母様に向ける顔がありませんんんー!!
おば様助けてぇ~!!」

瑠璃の瞳からぼろぼろと涙を零しながらベティは嘆く。
見たところ、彼女はハイネよりも少し年上風である。
この世界では、大好きな伯母という存在と共に今まで生きていたようだ。

「ほーら、噂をすれば……来たわよ」

カツンカツンと靴音を鳴らして現れたのは――クラインだ。
ぎょっとしたハイネに目もくれず、彼は牢を開けてイザナを指さす。

「本日の選定は貴女になりました。
さぁ、私におとなしくついてき――」

「ま、待ったぁ!!!」

ハイネが立ち上がる。
懐からレムリアに貰った黒いカードを急いで引っ張り出し、クラインに突きつける。

「今日はうち!!
ヨロシク!!
クライン・レーゲン先生!!」

名乗ってもいない、初対面のはずの少女に名を呼ばれ、クラインは固まる。
半ば気圧される形でクラインは牢から押し出された。

「貴女……何者ですか」

「ただの“旅人”!」

去り際、後ろをそっと振り返ると、イザナ達が心配そうにこちらを見ていた。
大丈夫だよ、と声にならない声で告げ、ハイネは去る。

「……ホント、変な子ね?」

「ミー、助けてもらたデース?
オナマエ聞けんとでしタ」

「うーん、でもベティ、あの子のこと知ってるような……いないような……?
おかしいですねぇ……」




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