それは夢の中。
ハイネは暗い空間で『旅人』の現れを待っていたのだった。
「ふむ。君から私を呼ぶとは、奇妙なこともあったものだ」
フワフワと浮かぶ光の球達の間をすり抜けるようにやってきた姿。
その表情は、これから何が起こるのかを知っているような笑みだった。
「これもどうせ旅人さんにはもうわかってることやろうけど」
仁王立ちのハイネは、ふんすと鼻を鳴らす。
「どうしたってうちには困ってる人を見過ごせない。
だから、ガマンするのはやめる。
旅人さん、言ってたよね。心を壊した男の人の話。
たぶんこのままだと、うちもそうなる」
「開き直るというわけか。
だがそれは、君が帰る場所が遠のくことにも等しい。
君が変えてしまった世界は、少しずつ座標が変わっていく」
「どうして遠くなるって決まってるん?
近道になることだってあるでしょ」
ほう、と旅人は笑う。
「うちの世界は、すっごく平和。
だったら、平和な世界を作って渡っていけば、それが一番近道だと思うの」
「君は……まさか辿り着いた世界全てを救っていこうとでも言うのか?」
「そう。
……確かに、全部突っ切って走り抜ければ、何事もなかったみたいに帰れるかもしれん。
でも、この先いくつの世界を渡るかわからんなら、自分で“選んで”渡りたい」
旅人は腕を組んで肩を竦めた。
「なるほどな。
君はどうやら私にとってもイレギュラーらしい」
え、とハイネが呆けた顔をする。
旅人はくるりと背を向けた。真っ白な髪がサラリと揺れる。
「君は“弾き出される存在”だと、聞いただろう?
その性質は私が与えたものだ。
並行人格は、同じ世界に留まれば二者択一。どちらかが生き残り、どちらかが消える。
歴史を旅する君の場合、飛んだ先の世界でこの二者択一が起こってしまってはまずい。
“私”という概念は、君の生存を条件にしている。
――君を守ると、約束したからだ」
「そんなこと……一体誰と?」
「正真正銘、君の父とさ」
勢いよく振り返った旅人の顔は、――『ヒメサマ』だった。
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