最も目を丸くしていたのはヒスイだった。
無理もない。自分の姪と同一であると知ったのだから。

「な、なに……。兄貴とアガーテ様の、娘……?」

「――そういうことだったのだな。
ハイネ、お前は本当にアガーテ殿によく似ている。
隠し子を疑ったくらいだ」

「隠し子、ね。まぁそうなるわな。
あぁでも、隠し子としてうちを使うのだけはやめてな……」

前の世界での一悶着を思い出して顔が引きつる。

「しかしハイネよ。元の世界で君は両親を亡くしたようだが、この世界ではどちらも健在だ。
会いに行くのも悪くはないのではないか?」

「ううん。いいの。
メーワクかけたくないし……」

本当はすごく会いたい。
でも、会って辛い思いをするなら、何も見なかったことにして去ろうと決めていたのだ。

「いや、待ってくれ」

ヒスイがハイネの決意に待ったをかける。

「なぁハイネ、お前がおれば事態が変わるかもしれん。
ブランディアに協力してくれんか?
お前がアガーテ様と兄貴を繋げてくれたら、ヴィオルを退けられる」

「え……?」

この気持ちは、なんだろう。
ハイネの心が曇った気がした。
ヒスイは真面目に頼んでいるのだろうが、質の悪い冗談に聞こえたのだ。

「おいヒスイ、その話は……」

「こんなチャンスないやろ!!
兄貴さえこっちに連れ戻せれば、ヴィオルの周りは総崩れにできる!
そしたら、こんな戦争終わっ……――」

ばっ、と立ち上がったハイネにぎょっとする。
小さな拳を震わせている彼女の顔は歪んでいた。

「ここの二人は、うちの親と違う。
なぁヒスイ兄ちゃん、うちの話聞いとった?!
うちがどんなに前の世界で、全部全部後悔して、ここの皆にそのこと黙ってたか……!!」

「あ、いや、すまん、悪気があったわけやなくて……」

「いいよ、もう!! ほっといて!!」

バタン、と乱暴に扉を閉め、ハイネはまたも部屋から出て行ってしまった。




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