人間、驚きすぎると声が出ないものだ。
ハイネの視界を、――近すぎてよくわからないが――人形のような顔立ちが占拠していた。
薄紅の中に紫の瞳孔が浮かぶ瞳。見たことがない色だ。
蝋のように白くて滑らかな肌、豊かな白金の睫毛。
呼吸も忘れてのけぞっていると、その顔は二、三歩下がって全貌を露わにした。
少年だろうか。
華奢な体躯で、少しばかり子供っぽい柄の黒い服を着た人物。
薄い唇が弧を描き、人形からヒトへと認識を変えた。
尖った耳がエルフによく似ている。
「キミすっごいおいしそうな香りだネ!!
ついつい誘われてきちゃったよ!!」
「お、おおお、おいしそう?!」
「ウン!!
たっぷり濃厚な魔力のニオイ♪」
ぺろり、と舌なめずりした少年は、どこからともなくナイフを取り出した。
瞬時に本能が“ヤバイ”と告げる。
「き、君だれ?!
ひょっとしてほんまに人攫いの犯人じゃ……?!」
んー?と首を傾げた少年。
ハネた自分の髪を指でくるくるといじりながら困ったような顔を浮かべる。
「あれれ、むしろボクが罠にはまっちゃったカンジ~??
どーしよ、怒られちゃうなあ」
くるり、と彼は身を翻すと、ナイフを逆手に握って屈んだ。
「そいじゃ、半殺しでテイクアウト、オーケーかな?!
だいじょーぶ、キミかわいいから手足はつけといてあげる!!」
シュッ、と目にもとまらぬ早さでその姿が消える。
――刺される?!
思わず自分で自分を抱きしめたところで、背後から刃が弾ける甲高い音がした。
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