粉雪が舞っている。
ふう、と吐いた息が真っ白だ。
今頃カレイドヴルフやブランディアならうだるような暑さだろうが、この国は涼しい顔で佇んでいる。

宿屋から出てすぐのところにある小さな広場へ向かう。
もう夜も深まってきた。しんと静かな街中に、音もなく白い結晶が舞い降りている。
うっすらと積もっている雪道に足跡をサクサクと刻みつつ、ハイネは空を見上げた。
その手はギュッと力強く懐中時計を握っている。
そっと目を閉じ、耳をすませる。



ヒューランの話で、1つ閃いたのだ。
そう、“自分”を囮にできないかと。

(うちだって魔力は多いはず。
おとんほどじゃないかもだけど……)

ハイネが錬金術の道を選んだのは、持ち前の魔力の多さからだ。
しかし、彼女ほどであれば精霊術でもその才能を遺憾なく発揮していただろう。
だが、この力は戦うためよりも助けるために使いたいと願ったのだ。

(そりゃあ、炎とか出せたらカッコイイとは思うけど)

父は、簡単な炎の魔法なら扱えていた。
例えば料理をする時とか、焚火をしたい時とか、そういう時は魔法を使っていた。
でも仕事――つまり戦闘では使わない事に拘っていたようだ。

なんで?、と聞けば、こう答えた。

――おとんはアホやから、ぎょーさん魔力があっても使い方がよぉわからんのや。

――お前は学校でしっかり勉強してこいよ。

今なら何となくわかる。
父は、娘に受け継がせた力に責任をとりたかったのだろうと。

(なんか、旅を始めてから、おとんの事よく考えちゃうなぁ)

がむしゃらに勉強をしていた日常から解き放たれ、不意に懐かしい影を探してしまう。



いけない、と頭を振って目を開けると、鼻先がくっつきそうなほどの距離に知らない顔があった。




-204-


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