その日1日、ギルドや街中で人攫いについて調べるも、大した情報は得られなかった。
そもそも情報を持つ人物がいるのならばここまでの事件には発展していないだろうが。

一行は宿をとり、今晩は聖都で一夜を明かすことにした。



「ヒューランって、ダークエルフなん……?」

イザナについて語ったヒスイが告げた言葉に対して、ハイネは疑問を抱いていた。
ダークエルフは赤の国の先住民だ。長身と褐色の肌は彼らと共通するが、エルフ族特有の尖った耳はヒューランにはない。


「俺の曾祖母が、ダークエルフだ。
……ブランディアでは、ダークエルフはケモノと同類。王都での彼らの扱いも、察する通りだ。
俺の祖父がハーフエルフであることをコンプレックスに思って、今のエレミア家の地位を築き上げたのさ。
執念と意趣返しで出来上がった王位というわけだ」

ハイネも赤の国に住んでいた頃は、何度かダークエルフの姿を見たことがある。
彼らは古典的な弓と槍を持ってオアシスを遠巻きに眺め、そのまま立ち去っていく。
残り少ない同胞に魔の手が伸びないように、定期的に視察をしていたのだろう。

しかし、そんなに警戒心の強い種族が、人間と子をなすことがあるとは驚きだった。

「曾祖父と召使いのダークエルフとの子供、その子孫が俺達だ。
それで、俺やイザナは、ダークエルフの乳母に育てられた。
俺は母に言語を教わったからこうして普通に喋れるが、イザナは勉強が嫌いで、乳母の言葉しか知らない。
ただ、ダークエルフの血が濃いイザナは、歌声に妙な力があるらしいんだ。
俺にもよくわからないが、あいつの歌を聞いた連中は揃って闘争心を削がれる。
狙われたとなればその能力かもしれない。魔法の才能も俺より優れている」

魔法の才能――……

何気ないヒューランの言葉を拾ったハイネは、ある事に気が付いて、人攫いの情報が記載されたチラシを取り出す。

「ねぇ、このいなくなってもうた人達、ひょっとして魔力が多い人……だったりせんかな?」

「ふむ、なるほど。魔力に長けた者を狙っていると?
女性ばかりを狙っている外道なところも私は気になるぞ」

「小柄な人物を狙っているようにも見える。
魔力の多さだけで対象を選ぶのなら男でもいいはずだ」

ちら、とヒューランはヒスイに目をやる。

「お前が女だったら囮にできたものだが」

「がっはっは!! よう言うわほんま!!」

アメリとハイネもヒスイに目をやる。
ヒューランの冗談の正体はこうだった。

「ワイは“半悪魔”っつってな。
人間と悪魔の混血なんよ。
エルフやらなんやらの比にならん魔力持ってんで?
――まぁ、使えへんけどな!! がははは!!」

「あ、悪魔だとぅ?!
ヒューラン、君の側近が悪魔の子とは、随分と肝が据わっているではないか……!!」

「それに見合うだけの戦闘力がある。ただそれだけだ」

ああそうか、とハイネはヒスイが包帯で隠している片目を見つめる。
半悪魔は双眸の色がそれぞれ異なるのが特徴だ。
クレイズやクラインもそうだった。そして、――自分の父親も。

「うち、ちょっと外の風に当たってくる。
いろいろ考えてたら頭熱くなってきたわ」

おもむろに立ち上がったハイネは仲間の返事を待たずに部屋を後にする。
待て、と皆が声をかけるが、彼女は1人でさっさと扉を閉めてしまった。

「……なんや、どないしたんやあいつ」

「まったく! また1人で何か考えているのだな?!
仕方ない、私が一緒に――」

「いや、俺が行く」

ヒューランが立ち上がった。

「半刻経っても俺達が戻らなかったら……お前達も来てくれ」

彼はそう言うと、武器を持ってハイネを追っていった。




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