聖都アルマツィアに至ったハイネ達は、傭兵ギルドの掲示板に貼られた紙を見て立ち尽くしていた。

ヒューランの妹イザナが、ほんの数日前に、囲われていたアルマツィア宮殿から忽然といなくなってしまったという。
国から女が数人消えたところで気にも留めていなかった教皇ルベラだが、自分の愛人が失踪したとなると放ってはおけない。
ただの玩具のようなその他大勢の愛人であれば見捨てていただろうが、今回ばかりは赤の国の王族という気高き身分の女だ。
手放すにはいささか惜しかったらしい。

――そんな話を、傭兵ギルドで耳にする。
実兄が隣で眉間に深いシワを刻んでいる事に気づいたのはハイネ達だけだ。



ギルド内の人込みから外れたところで、ハイネ達は円を描くように向き合う。

「ど、どうする?
助けに行かんと……」

「しっかしなぁ。犯人が誰だかサッパリわからん。
イザナ姫を狙う連中なんざおるかねぇ」

「ヒューラン、君の妹君なのだろう?
つまるところ未来の王妹ということだ。
権力争いの切り札にされてもおかしくなかろう?
王族としての機密を握っているだろうし、それを狙った連中とも――……」

うんうん、とハイネは頷いたのだが、当の兄ヒューランは何故か頭痛でもしていそうな顔をしている。

「確かに、イザナは俺の妹だし、すべての事が上手く運べば、あいつは俺の次に高い身分になるだろう。
……だろう、が……」

「が?」

何か言いづらい事情でもあるのだろうか。
ひょっとしたら人攫いの犯人に繋がる情報かもしれない……とハイネやアメリは身を乗り出している。
しかし、喉まで出かかっている言葉を押えているような主の代わりにヒスイが口を開いた。

「イザナ姫は、歌って踊るのが好きな、陽気な姫さんでな。
しかも、ダークエルフ訛りが酷くて言葉もうまく話せん。要するに“アホ”なんや。
捕まえたところでエレミア家の事情を知るわけでもなし、せいぜい賑やかしに使える美人なだけやね。
むしろ、教皇のとこに辿り着いただけ優秀やわ。
砂漠でラクダ追いかけて迷子になるような王女やさかい」

しん、と静まり返った。




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