1年中雪の世界に囚われる白の国アルマツィア。
碧の国の誕生により世界頂点の座は降りたが、その国力は衰えない。
だが最近、かつての強国を悩ませる事件が相次いでいた。
『アルマツィア連続誘拐事件』である。
事の発端は、白の国の西側末端にあるクルトという街に住む若い女性の失踪だった。
傭兵だという彼女は、浮いた話の多い夜の蝶であり、当初は痴話喧嘩のもつれで少し痛い目でも見たのだろうと軽くあしらわれていた。
だが彼女を知る周辺人物達は、本当に何の前触れもなく忽然と消えてしまったのだと口を揃える。
――とはいえ、世間的にも身分の低い傭兵の女が1人消えたところで、誰が真面目に捜査などするだろうか。
彼女は未だ行方知れずである。
それが仇となったのだろうか。
次に狙われたターゲットはカルル村のシスターだった。
カルル村は白の国唯一の港を持つ、田舎ではあるが決して捨て置けない村である。
この村は教会の神父を長のように慕っている。その神父のもとで働くシスターが消えてしまったのだ。
それでもこの国の主たる教皇ルベラは頑として動かなかったが、カルル村の神父が抱いた不信感により、少しずつ事件の真相を求める動きが出てきた。
そこでようやく、忘れかけられていた先述の女傭兵の失踪と何か関係があるのでは、と推測が立つ。
だが推測は推測、決定的な証拠もない。
そのまま、今度はガラントという北西の村で、用心棒をしていた女の姪が姿を消した。
女は激昂して犯人を追いかけていったというが、その後数週間、誰も彼女を目撃していない。
そしてついに、聖都アルマツィアでも、ルベラの愛人の1人であった女性が消えてしまったという。
そう、その消えた女性というのが、『イザナ』という名の若い娘だそうだ。
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