彼はもともと、生まれ持った魔力の多さに目をつけられていた。
だがリアンの元で身体的に育てられたはいいが、多大な魔力を使いこなすだけの感情が育たなかった。
魔力回路がいくら複雑であろうと、心がなければ満足に働かない。

だから、鳥かごから放たれた。

引き寄せあう並行人格は18年の隔離を経て巡り合い、そして旅を共にする。
ジストと歩んだ道の中で、カルセは外の世界を知った。
誰かと笑い、悲しみ、愛する。空虚な親では教えることが叶わないそれを、ジストが授けてくれた。

それが、滅亡の引き金になるとは知らずに。



「正直、よく覚えてないんだ。
リアンに何かの封印を解かれたような……そんな感触の後は、真っ白。
カイヤは、視界が閉ざされるくらいの眩暈を起こしたことはある?
『まずい』とわかってはいたけど、体が言うことをきかないんだ」

「では、完全に自我が失われた……というわけではないんですね。
もしかしたら、邪なるものは交渉が効くのかもしれない可能性もあるってことだ」

「それはあるかも。ほら、君達も僕に声かけてくれたでしょう?
まぁ、それを理解する余裕は、僕にはなかったんだけど……。
でも『名前』を呼んでくれた時に、少しだけ冷静になれた、かな。
手を差し伸べてくれたような……。僕はそれを掴もうと、もがいた」

「名前、か……」

「僕にとって、『カルセドニー』は特別な名前だから。
リアンに呼ばれていたような、道具みたいな名称じゃなくて、僕自身の名前。
もしかしたら、そのヒトにとっての大切な言葉が、正気を取り戻させてくれるのかもしれないね」

「なるほど。いい話を聞けました。これは早速ハイネさんに報告せねば……」

「え、ハイネ? ハイネって、メノウさんの娘さんの、あの?」

うっかり漏れてしまった独り言に、カイヤは大慌てで誤魔化しを並べる。

「え?! あ、えぇと、はい、そうです。
うーんと……、彼女、今すごい研究してるんで、こうして私が情報を集めにきたわけで……」

「そうなんだ。ハイネだったら僕から直接話してあげてもよかったのに。
お城に来ていいんだよって、言っておいてよ」

「いやー!! 彼女忙しそうで!!
まったくもう、師匠の私をこうやってパシらせるくらいには大物になっちゃいましたからね!!
メノウさんもびっくりでしょうな!! あはは!!」

カイヤは昔から嘘をつくのが下手だ。
カルセもそれはやんわり気付いていた。
絶対に何かを隠しているだろうが、深くは詮索しないでおいた。



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