レムリアが部屋を去った後、茫然とカードを見つめていたハイネのもとにアメリがやってきた。

「ヒューランが目を覚ましたぞ!」

はっ、と我に返ったハイネは、曰くつきのカードを丁重にしまい込んで部屋を飛び出す。





ヒューランの部屋を訪れると、彼は上半身を起こしてヒスイの雑談に耳を傾けていた。

「ヒューラン!
起きて大丈夫なん?」

「あ、あぁ、ハイネか……。
すまない、もう大丈夫だ。心配をかけた」

ヒスイはさもからかいたげにニヤニヤと頬を緩めている。
しかし、ハイネの引きつった顔に何かを察したのか、席を譲った。

「ほんじゃ、ワイはジスト陛下のとこに報告行ってくるわ。
アメリも来ぃ」

「何故私が君についていかねばならぬのだ!
むむむ。不服だ」

二人が去ってから、ハイネは気遣いに感謝しつつヒスイの席に座る。



「具合どう?
どっかおかしいとか、ない?」

「……まるで悪い夢から覚めたようだ。体が怠い」

「えぇ? じゃあもうちょい寝てた方が……」

「いや……。俺に何か言いたいことがあるのだろう?」

「あぁ……うん。じゃあ、魔物のこと……なんやけど」

「ヒトだった、らしいな。
それを、俺が無残に殺したと。お前の制止も聞かずに」

ベッドの脇に置かれた宝剣に二人の視線が泳いでいく。
今は鞘に収まっており、あの禍々しい刃は見えない。
素人目にはごく一般的な剣のようである。

「ヴィオルから盗んだって、ほんま?」

「そうだ。俺が蔵に忍び込んで持ち出して、命からがら亡命してきた」

「でも、使うとおかしくなるって」

「あぁ。その刃を引き抜けば、猛烈に何かを斬りたい衝動に駆られる。
俺は武術には慣れているが、別に争いたい心があるわけじゃない。
だがその剣は、こんな俺でもおかしくするんだ」

「じゃあなんであの時使ったん?」

「……宝剣にまつわる言い伝えを、聞いたことはないか?
5つの宝剣は“邪なるもの”を封じる、と。
俺はその邪なるものというのが何なのかは知らないが、あの魔物はそれに近しい何か……のように思えたんだ」

小さい頃に読み聞かせられた絵本に、そんな話が書かれていたと思い出す。
――あの時は、「ヨコシマナルモノってなに?」と父親に聞いても「知らん」と即答されたが。

8歳の時に見たあの怪物を、カイヤはそう呼んでいた。
宝剣が効いたということは、クレイズが堕ちた姿であるあの魔物と、大群で押し寄せてきた怪物たちは、やはり近しい存在なのかもしれない。
となると、あの大群はすべて、元々はヒトだった――……?

「お前も相当顔色が悪いが……大丈夫か?」

「え?! そ、そうかな?!
ちょっと疲れてるのかも。あはは」

「少し休んだらどうだ?
俺はもう何ともないし、ジスト女王も心行くまで部屋を貸してくれると言っている」

「そ、そだね……。そうする」

本当は、レムリアのことを話そうか迷っていた。
だがヒューラン達には彼らなりの旅があるわけで、それを邪魔するわけにはいかなかった。

本音としては、少し心細かったけれど。



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