自室に戻る手前で、ハイネを待っていた人影があった。
――カイヤとアンリだ。
あくまでも平常心を装うカイヤだが、枯れるほど涙を流したのか目元を真っ赤にしている。
「ハイネさん。少しいいですか?」
「はい、大丈夫です」
今度はその二人を部屋へ招き入れ、膝を突き合わせた。
「まずは……そう。お礼を言わなくては。
長年行方知れずだった父を見つけてくださってありがとうございました」
カイヤは深々と頭を下げた。
予想外の言葉に慌てて顔を上げるよう言えば、カイヤはどこかスッキリとした表情を覗かせていた。
「心のどこかで、父は生きているのではないかとずっと疑っていました。
でも会える保証なんてどこにもなくて。掴めない答えを掴もうと、長年足掻いてここまできたんです。
こんな形での再会になってしまって、正直に言えばあと1週間は泣き通せると思うくらいですけど……
やっと、前を向けたというか」
「しかしねぇ……。ヒトを魔物に変えていたなんて、公になったらどんな騒ぎになることか。
だから僕言ったんですよ。あのレムリアって人は好きになれないと」
レムリアは――学会は、一体何を目的にこんな非道な真似をしているのか。
本人の口から語られることはなかったが、渡された招待状に従えば謎が解けるのかもしれない。
そしてそこには、犠牲になったクレイズにまつわる話も残されているだろう。
「うち、黒の国を目指します。
レムリアさんに、招待されてて」
「だ、大丈夫なんですか、それ……?」
端的に言えば恐怖でしかない。
かつてここを訪れた“ハイネ達”も導かれたのだろう。
しかし、自分が今ここにいるということは、並行人格達が辿った末路はお察しだ。
もしかしたら、自分も酷い目に合うかもしれない。
それでも。
「大丈夫。なんならここ来る時にいっぺん死んだようなもんや!
大穴飛び込むよりはマシやろ!!」
「そりゃ逞しい限りですがねぇ。
……ハイネさん、困ったら頼っていいんですよ。僕でも、カイヤさんでも、あるいは仲間の皆さんにでも。
貴女、まだ若いんですから」
「うん、おおきに。
その時は、まぁ、頼らせてもらうわ!」
――あぁ、私と同じだな、この子。
カイヤは複雑そうにハイネの笑顔を見つめていた。
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