――私も時々、夢に見るのです。神か運命か、私の道を阻む声がする。
レムリアはそう語った。
恐らくその夢は“旅人”の夢だ。
前の世界のレムリアは、旅人の声に従って生きていた。
道を逸脱しないように止めてくれる声だと、彼は感じていた。
だが今目の前にいるレムリアは、その導きに背いてここにいる。
あぁ、うるさい、と虫の羽音でも聞いているかのように。
「私の“旅人”という言葉に反応する人を待っていたのです。
それが貴女でした。
探していたのですよ。“時の旅人”を」
「時の、旅人――……?」
「貴女は“貴女自身の並行人格”に会ったことはありますか?」
不意に、彼はそう尋ねてきた。
他の世界の自分。別の歴史を歩む自分。
ここは二番目の世界だが、未だに自分の並行人格には会ったことがない、とハイネは気付く。
「その顔を見るに、図星といったところでしょうか。
並行人格は引かれあうもの。本人の意思とは関係なく、同じ世界にいれば、遅かれ早かれ吸い寄せられてしまう。
何故なら“同一”だから。そして混じり合い、本当の意味で一つの存在となる。
なのに、貴女は自分の並行人格と出会ったことがない。
貴女はイレギュラーなのです。吸い寄せられるどころか、“弾き出される”」
その世界に“別のハイネ”がやってくれば、そこにいたハイネは別の世界に飛ばされる。
かつてはこの世界にも、前の世界にも、更には“元の世界にも”、ハイネがいた。
そして、いずれこの世界からハイネが旅立てば、また別のハイネがやってくる。
――“私”って、一体どれなんだ?
「レムリアさんはなんでそんなこと知ってるん……?」
「手段はどうであれ、私も“他の世界”から来た者ですから。
だから、同じように他の世界からやってくる貴女を待っていたのです」
次に彼から語られた話は、ハイネに更なる不安と恐怖を上塗りすることとなる。
「貴女への最初の挨拶を訂正しましょうか。
――私は何度も貴女に会ったことがある。
いつ、いかなる時の貴女も、“私を辿ってくる”。
その度にこれを渡してきました」
そう言いながら彼が差し出した1枚の真っ黒なカード。
それは、今は滅びた黒の国ダインスレフにある、『学会』への招待状だった。
「貴女が持つ“知識”が、私は欲しいのですよ」
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