直に粉を浴びたヒューランは、一瞬で意識を奪われ崩れ落ちる。
その手から宝剣が滑り落ちた。

「「ヒューラン!!」」

ヒスイとアメリが倒れた彼に駆け寄る。
同じくユリの粉を浴びた魔物もフラフラとよろめき、ドサリと倒れこんだ。

「ハイネ!!
お前ッ……!!」

ヒスイの睨みに一瞬たじろぐが、ハイネは「ごめん」と囁くと魔物へ近づく。
その様子に彼は動揺し、彼女を止めるべく手を伸ばした。
だがその手に目もくれず、ハイネは倒れる魔物と視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

「ごめんな、痛かったやろ、なぁ、“クレイズ先生”」

その場が凍り付いた。
なぜかつての学者の名が今?

虚ろな赤い瞳がハイネの胸元を見つめる。
その視線の先にあるのは、懐中時計だ。

「“コレ”が欲しかったんやね。
この中には……きれいな魔力回路が入ってるから」

『……あぁ、そうだ。僕はそれが欲しかった……。
元に戻りたかった……。
“あの子”を抱きしめられる体に戻りたかったんだ……』

周囲の者が一斉に耳を疑う。
か細くも、今度は確かにその声が聞こえた。

じわじわと黒い霧が溢れる。
魔物の体はやがて空中へ散り、そこには1人の傷だらけの青年が倒れていた。

――よく知っている顔。

「……クレイズ先生……」

「裏切られた……。唯一の友人に……。
すべて、奪われた……。
あぁ、最期に……会いたかったなぁ……」

消え入るような声で娘の名前を呟くと、彼はゆっくりと目を閉じた。



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