『タス……ケ……』

傷を負った魔物の唸り声に人の声が混じった。
確かに、そう聞こえた。
思わずハイネは立ち止まって振り返る。

この魔物は助けを求めている……?

その声に耳をすませようとしたが、構わずヒューランが剣を振るう。
まるで人が変わってしまったかのように宝剣を振るう彼には、魔物の声が聞こえていないようだ。

――否、ハイネ以外には聞こえていないのだった。

「ヒューラン!! 待って!!」

慌てて制止の声を上げるが、それでも彼には届かない。
身を呈して彼を止める覚悟で駆け出すが、すぐにヒスイに抱え込まれた。

「放して!! 魔物が……っ!!」

「今のヒューランに近づいたらあかん、正気やない」

曲剣で次々と斬りつけるヒューラン。
魔物は抵抗しようとするも、身を乗り出せばすかさず斬り伏せられ倒れこむ。
普段の彼から想像もつかない、極めて残虐なやり方だ。

「だ、だめ、死んじゃう!
あの魔物、死んじゃうから!!」

「お、落ち着けやハイネ!
あの魔物がどうかしたんか?!」

助けて、と言っている。
ハイネにはわかるのだ。成す術なく傷ついていく間にも、あの魔物は悲鳴を上げていた。

『シニタクナイ』

『モドリタイ』

『タスケテ』

――それは、夢の中で聞こえた声と同じ。

あの魔物は、きっと。

「ヒューラン、ごめん!!」

ヒスイの腕の中から抜け出し、ハイネは鞄から取り出したユリの薬を彼へ投げつけた。



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