奮い立てるように身を起こした魔物は、呪われた牙が並ぶ口で目の前の人間たちを掠め取ろうとする。
横殴りの前足がそこら中の騎士を吹っ飛ばし、逃げ回るハイネを追う。
「ぎやぁぁぁ!!! なんでうちを狙うんんん!!!」
体力の許す限り右へ左へと走り回る。
半泣きで逃げる彼女を追うように、ヒスイやヒューラン、アメリは武器を構えて魔物の攻撃を弾く。
「ハイネ、逃げろ逃げろ!!
――そこかっ!!」
ヒスイが大剣の一撃を叩き込むが、金属でも叩いたような音がして弾き飛ばされる。
「かった?! なんやコイツ!!」
「うわああん!! ヒスイ兄ちゃんのバカぁぁぁ!! 強いんじゃなかったんんん?!」
「そらあんまりやで!!」
何度斬りつけても弾かれる。
それはアメリも同じで、足の腱を的確に狙うも弾き返される。
「な、なんだこの硬さは?!
私の剣の一突きは岩をも砕くというのに?!」
「もう無理、たすけて、うちこれ以上走れへん~~!!」
――ただの刃では太刀打ちできない……。
ヒューランは持っていた剣を収め、もう一本の鞘に手を伸ばす。
それを見たヒスイはぎょっとして叫んだ。
「ヒューラン!
そいつは抜くな――」
ヒューランが引き抜いたのは一振りの曲剣。
その刃は燃えるように赤く煌めいていた。
「あ、あれは……“宝剣ブランディア”……?!」
アメリが口にしたその名に、騎士達はざわめく。
赤の国の王だけが振るうことを許される聖なる剣、ブランディア。
ヴィオルが持っているはずのものを、なぜヒューランが……――?
彼が振るった曲剣の軌跡は赤い光の弧を描く。
その一撃は、ついに魔物に傷を刻んだのだった。
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