魔物の討伐隊である騎士団の小隊が出発すると聞き、ハイネ達はそれに同行して魔物と対面を果たすこととなった。
例の魔物は、一度動き出せば周りを薙ぎ倒してしまうほどに狂暴らしいが、基本的には同じ場所でうずくまって動かないのだという。
そのおかげで王都が襲われずに済んでいるのだが、いつ魔物の気が変わるかわからない。
だからこそ、前線へ向かう騎士団は物々しく武装するのだ。
騎士達は各々愛馬に乗り隊列を組むと、その後ろにヒューランとヒスイ、そしてアメリの後ろに乗せてもらったハイネと、アメリを護衛する騎士が連なる。
アメリが乗る馬は真っ白な毛並みの白馬だ。
――アトリくんと同じ馬かな。
つん、と涙腺が突かれるが、気を取り直すように、彼女は頭をブルブルと振る。
前を行くヒスイやヒューランは、それぞれ武器を装備している。
アメリも細剣を持っているようだ。
ハイネは戦うことができないため丸腰だが、鞄に薬だけは忍ばせておいた。
魔物による傷は呪われており、普通の薬など効かないとわかってはいるが、それくらいしか用意できるものがなかったのだ。
王都を出発し北西へ進んでいくと、何やら薄気味悪い空気の流れを肌に感じた。
じっとりと纏わりつくような、重苦しい気分だ。
それが奥地で構える魔物から漏れ出す魔力だと気付くまでそう時間はいらなかった。
真っ黒な巨体。
うずくまったそれは小高い丘のようだ。
先頭の騎士が制止を指示すると、騎士団はピタリと足を止めて息をひそめる。
寝ているのだろうか。
魔物はゆっくりとした呼吸で上下する背を見せているだけで、襲い掛かってくる気配がない。
実際に目の当たりにした魔物は見上げるほど大きい。
思わず口をあんぐりと開けてしまうほどだ。
その生態を少しでも明らかにしようと、ハイネを始めとする一行はゆっくりと魔物に近づく。
そう、ゆっくりと、足音を忍ばせて――……
ザッ!、と突然魔物が顔を上げる。
すぐ傍まで近づいていた一行はぎょっとしてその顔を見上げた。
血のように赤い瞳がハイネを見つめている。
「う、うち?!」
問いかけへの答えだろうか――禍々しい黒い爪がハイネの鼻先に現れた。
「起きたぞ!! 戦闘準備!! 戦闘準備!!」
「武器を持てー!!」
――オオオン……
狼の遠吠えのような鳴き声がこだました。
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