食堂で朝食を済ませたハイネは自室へと戻る。
今朝の悪夢の勢いのまま荒れ果てたベッドを見てため息を一つ。
サイドテーブルから転がり落ちた花瓶を拾い上げ、水浸しの床を拭く。
すっかり濡れてしまった一輪の黄色い百合を拾い上げ、その大輪を眺める。
くんくん、と鼻を鳴らしてみるが、びっしょりと濡れてしまったせいか、城内に立ち込める甘い香りよりいくらか薄らいでいた。
ハイネの世界では、百合の花粉を使った魔法薬がある。
調合の際に注ぐ魔力の量によって、幻覚作用を引き起こす毒薬から入眠のための睡眠薬と、器用に姿を変えるのだ。
――デッカい魔物にも効くかなぁ?
ハイネは鞄からすり鉢を取り出し、その百合から花粉を取って調合してみる。
百合の薬は初歩的なものだ。ハイネにとっては難しくもなんともない。
ところが、知識通りに調合したにも関わらずかなり強めの薬が出来上がった。
実際に服用したわけではないが、香りや出来栄えが何だか記憶のものより毒々しいのだ。
まぁ大きな魔物に使うならちょうどいいかもな、と薬を紙に包んでしまいこんでから、改めて疑問が浮かぶ。
「……なんでお城中に百合の花を生けとるんや……?」
この黄色い百合は、どうやら巷のものより花粉の密度が濃いようだ。
ただ飾っているだけで白昼夢を見てしまってもおかしくはない。
と、そこまで考えてから、この城に来てからの記憶が脳裏を過る。
レムリアと話した時。
廊下を歩いた時。
この部屋で過ごした一晩。
どの記憶にも、視界の隅にこの黄色い百合がある。
胸騒ぎがしてきたところで、ヒューランが再び部屋の前に現れた。
「ハイネ。少しいいか?
……ヒスイの様子がおかしいんだ」
ゴクリ、と喉を鳴らし、ハイネは頷いて立ち上がった。
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