『ドラゴンですか?』

懐中時計の向こうからカイヤの訝しげな声が伝わってくる。

「そう。ドラゴン。
いや……なんかの動物に見えなくもないんやけど、なんて言うたらえぇか……。
頭はキツネっぽくて、でも体はトカゲとかワニとか……みたいなウロコっぽくて……。
首が長くて、ツメが鋭くて、シッポは体と同じくらいのサイズ」

『うーん、こちらでもそんな魔物と似ている種はパッと思いつかないですね……。
それで、ものすごく大きいんですよね?』

「うん。傍に写ってる騎士団の人なんか、蟻みたいに踏み潰されそう」

書庫での探し物に半日を費やしても、まるで調査の進展がない。
今宵は一旦解散してジストに宛がわれた客室で休むことになったのだが、寝付けずにハイネは懐中時計を相手に時間を潰していた。

「んで、うちの予想だと、6年前にぎょーさん襲ってきた化け物の仲間やないかな、なんて。
なんかこう……似てるんよ。この禍々しさみたいなもんが」

『あぁ、“邪なる者”のことですか。
あれもね……、実はその生態がよくわかっていないんですよ。
親玉が封じられた時、すべて霧のように消えてしまったそうで……サンプルの採取さえできなくて。
だから調べようがないんですよね。情報がなさすぎる』

でも、とカイヤは続ける。

『邪なる者は膨大な魔力から湧き出てきた存在です。
仮に邪なる者とそちらの魔物が似たような条件で発生した個体なら、何らかの不自然な魔力の干渉を受けた“ミュータント”……つまり突然変異体、かもしれません。
考えられる可能性としては、既存の動物、魔物、それらがベースになっている説でしょうか』

――突然変異で生まれた事も考えたのだが、在来種にも、派生元と思わしい種はいないようだ……。

日中にヒューランが口にした仮説を不意に思い出す。
途端にハイネは血の気が引いた。

「……ねえ、カイヤ先生。もし、もしだよ。そのベースっていうのが動物でも魔物でもなかったら……」

ゴクリ、と喉を鳴らす緊張感が遠くから伝わってくる。

『ヒトが元になった、――という可能性も、ゼロではありません。
私、ヒトがドラゴンに成り果てるところ、2回も見た事ありますから……――』




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