王城の書庫には、壁一面に数多くの本が収められていた。
旧緑の国に関する歴史書が大半のようだが、過去の著名な学者の論文から子供向けのおとぎ話まで、多岐にわたる分野の本が陳列されている。

山ほどの本を積み上げて座っていたヒューランが、ハイネの気配に気付いて顔を上げた。

「す、すまない、夢中で気付かなかった」

「ううん、こっちこそ邪魔してもうて。
うちも手伝うよ! 何かわかったことはある?」

手に持っていた本をパタンと閉じて傍らに置いた彼は、深々とため息を漏らした。

「古来の魔物についての論文や図鑑を手当たり次第に調べているのだが……何も。
突然変異で生まれた事も考えたのだが、在来種にも、派生元と思わしい種はいないようだ……」

ジスト曰く、『3階建て民家と同じような』大きさだというその魔物。
書庫の閉め切られたカーテンから外を覗き見たハイネは、王都の街並みを見つめて眉を歪める。
そんなに大きな魔物など、見た事が……――

「いや、あるわ」

ぽつりと彼女が漏らした声に、ヒスイとヒューランは顔を上げる。

「何が?」

「デッカい魔物! うち、昔見た事あんねん」

そう、それは6年前の記憶。
オアシスはもちろん、世界中に怒涛の如く湧いて出た魔物の大群。
木々をへし折り、壁を薙ぎ倒し、真っ黒な大波のように襲い掛かってきた“アレ”である。
あの未知の生物たちは民家を丸のみできそうなほどの巨体であり、村人が振るう剣がナマクラと化すほど強固な外皮をまとっていた。
6年経った今でも時折夢に出てくるほど、強烈な見た目をした異形の存在だ。
その化け物とミストルテインを悩ませる魔物が同じ種かはわからないが、照らし合わせてみる価値はありそうだ。

ハイネがその事を思い出したのとほぼ同じタイミングで、アメリが書庫に駆け込んできた。

「なぁ、見てくれたまえ諸君!
今しがた戻った騎士団の部隊が、魔物の姿を写真に捉えたそうだ!」

彼女が差し出す1枚の写真。
最初に受け取ったヒスイは、それを見るなり口元を歪めた。

「アカンわ……。こんなん見た事あらへん。ほんまに殺れんのか、コレ?」

ハイネとヒューランもヒスイの手元を覗き込む。
それはまるで……――



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