会議室を出たところで、アメリと鉢合わせた。
彼女はハイネの姿を見るなり、人懐こそうに笑う。

「レムリアとの話し合いはどうだった?」

「う、うーん、ぼちぼちかな」

“ここ”のレムリアは何やら様子がおかしい。
そう話そうとしたのだが、アメリはニコニコしているだけ。
以前、ヒューランとの婚約話の際に見せた彼女の鋭い片鱗は、今は隠れてしまっている。
察するに、アメリはレムリアに何の疑いも持っていないのだろう。
恐らくはジストも、グラン王子も、だ。

「ところでアメリ、ヒューラン達ってどこにおる?」

「む? 彼らなら城の奥の書庫にいるぞ。案内しようか?」

「うん、お願い」



アメリに連れられ、城の長い廊下を歩いていく。
埃一つない、上品な佇まいの城内。廊下には一定間隔で花瓶が置かれ、黄色の百合が生けられている。
城の中が甘い香りに満たされているようだ。
大輪の花は手入れが行き届いてとても美しいのだが、その香りを吸い込むと自我がフラフラと家出しそうな気分になる。

書庫の手前まで至ったところで、先に扉が開いてヒスイが現れた。
大欠伸を目撃され、その長身を跳ねて目を丸くする。

「うお、ビビった。なんや、お前らか。
ヒューランに用事か?
あいつなら本にかじりつきっぱなしやで」

退屈で敵わない、とヒスイはもう一つの欠伸を噛み殺す。

「その事なんやけど。
なぁなぁ、例の魔物の調査、うちも一緒にやらせてほしいねん」

「ほんまか」

「なんと……」

目の前の二人から同時に声が上がる。
わしわしと自分の後頭部を撫でるヒスイは、ニカリと歯を覗かせた。

「あぁ、こりゃ助かる。
ヒューランだけじゃ難航しそうでなぁ」

「ヒスイ、君も協力すればよかろう?」

「ワイのオツムに期待すんなや。がはは!
ハイネ、お前学生や言うてたな?
頭脳派求む!! ……な?」

わざとらしく両手を合わせて頼み込んでくる彼。
ハイネの強張った肩がようやく腑抜けた。

「ハイネが手を貸してくれるのなら、私も傍観はしていられないな。
母上に頼んで、調査任務に就かせてもらおうかと思う。
そうと決まれば、善は急げだな!」

アメリは踵を返し、玉座の間へと元気に駆けていった。



-179-


≪Back | Next≫


[Top]




Copyright (C) Hikaze All Rights Reserved