ジストが出した交換条件。
それは、とある魔物の討伐だった。

「一体どこから湧いたのか見当もつかないのだが、ミストルテイン北西にある森で巨大な魔物が暴れているのだ。
騎士団を定期的に向かわせて沈静化を図っているのだが、まるで歯が立たないほど強い。
だからこそ我が領の騎士団は忙しくて他国の防衛どころではない、と言えば納得してもらえるだろうか?」

その魔物は、この世界では確認されていない未知の種類の化け物だという。
キツネのようなネコのような四足動物の姿に近く、黒々とした体に真っ赤な瞳を持つ、3階建ての民家ほどの大きさ。
そのツメや牙に傷つけられればたちまち精神を蝕まれ、呪いを解く方法もわからない。

ミストルテイン北西の森にはアークエルフ族の集落があるのだが、その魔物の出現で集落は凄惨に破壊され、何人ものアークエルフ族が犠牲になった。
逃げのびた一部の住人は王都で保護されているが、集落跡を根城にされて故郷に戻ることができない。

「騎士団が太刀打ちできん魔物を、ワイらで何とかせぇと……」

沈黙が流れる。
そう甘くはないのだと我に返ったかのように、ヒスイとヒューランはぼんやりしている。

「弱点は?」

「さあ、わからない」

「じゃあ行動パターンは?」

「未知数だ」

ガク、とヒスイが傾く。
ははは、とジストは苦笑をこぼした。

「倒せ、とまでは言わない。何か1つ、突破口を見つけてくれればいい。
それを私に伝えるのだ。そして騎士団が無事に魔物を討伐できたら、報酬は先の通りだ」

一か八か、賭ける他にない。
渋い顔のヒスイをよそに、ヒューランは頷いて承諾した。

「わかりました。手を尽くします。
俺はもう、“逃げません”から」

「うむ! 期待しているぞ!
この城の文献は好きに見てくれて構わない。書庫への立ち入りを許可しよう。
刻限は指定しないが、できるだけ早めに。騎士団が全滅してしまっては元も子もないからな」

早速調査に移ろうと立ち上がるヒューランと、彼に引っ張り起されるヒスイ。
この場が解散されると、ハイネはレムリアに手招かれた。

「お待たせしました。貴女のお話を聞かせていただきましょう」

彼に連れられ、部屋を移動する。



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