優美、そしてどこか軽やかな、緑の屋根の大きな城。
馬車から降りて王城を見上げたハイネは、「ほええ……」と腑抜けた顔を浮かべる。
前の世界のミストルテイン城は知っているが、今目の前にそびえる城はハイネの記憶よりも美しく厳かに佇んでいる。
二国の合併の際に建て替えでもしたのかもしれない。
「ここがミストルテイン城だ。
母上がお待ちだ。案内しよう」
「いいえ、ここは私が。
お帰りなさいませ、アメリ様、グラン様」
門で迎えたのは柔和な雰囲気をまとった青年、レムリアだった。
「あっ、レムリアさん!」
思わずハイネはその名を呼ぶ。
きょとん、としたレムリアは、その後目を細めて笑った。
「貴女が私のお客人でしょうか。お会いしたことはないと存じますが」
「は、はい。すみません、つい。
噂は聞いておりまして、っていう感じで」
(……またやっちゃった!)
ヘラヘラとごまかし、頭を掻く。
相変わらず微笑んでいるレムリアだが、見えない瞳に見透かされているような気がした。
「ブランディアの皆様も、遠路はるばる足をお運びいただきまして。
どのようなご用件か、先に私がお伺いいたしましょう」
口を開こうとしたヒスイの一歩前に出たヒューランが、やんわり制止してレムリアに向き合う。
「無理を承知で、ある交渉をしに来ました。
女王陛下にお目通りは叶いますか?」
「交渉、ですか。内容にもよりますが……。
まぁ、我が主はまだかまだかと皆様を待ちわびておりますので、両国にとって実りある場になればと願ってやみませんね。
さぁ、ではこちらへ」
その流れで、レムリアはハイネに微笑みかける。
「貴女も、よろしければ。
ねぇ、小さな“旅人さん”」
――何故だろう。
彼の微笑みの向こうに深淵が見えた気がした。
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