娘と息子を乗せた馬車が着いた、と聞いた女王――ジスト。
そうか、と軽く流そうとしたところで、言伝の従者が客人の存在を主に伝える。
「赤の国の王族が来た?」
「えぇ。それから……ごく庶民的な、十代半ばくらいの少女も一緒にです。
彼女はどうやらレムリア殿にお会いしたいそうですよ」
ジストは傍らに視線を投げかける。
玉座の傍の花瓶に水をやっていた藤の花のような髪色の青年が、つと顔を上げて薄く微笑む。
「私にお客様、ですか。珍しいこともあるものですねぇ」
「いかがいたしましょう?」
傾けていたジョウロを水平に戻し、青年――レムリアは「うーん」と顎に指を添えて悩むような仕草をする。
「まぁ、青の国からはるばるいらしたというのなら、承りましょう。
コーネル陛下の刺客でなければよいのですが」
「いくら君を嫌っている男だからといって、彼はこのような嫌がらせはしない主義さ。妻の私が保証する」
「冗談ですよ。姫様は相変わらずお堅いですねぇ。はは」
腰に手を当てて呆れたような顔つきの女王と、食えない笑みの青年。
レムリアの存在は、従者達の心に謎を残す。
ジストが子供の頃から長らく彼女に仕え、そして彼女の子供達の世話役もしている男。
主とは30年以上の付き合いのようだが、その当時を知る老齢の執事も首を傾げるほど、レムリアは“年を取っていない”。
奇妙な光を宿した彼の瞳は、ミストルテイン領の近くに居を構えるアークエルフ族のそれとよく似ているが、彼らのように長く発達した耳を持つわけでもない。
強面の裏でジストに惚れこんでいるコーネルは、彼が知らないジストの幼少期から傍にいるレムリアが気に食わないようだ。
事あるごとに難癖をつけ、会議の場でもレムリアの存在を煙たがる。
そんな“もう一人の主”のわかりやすい嫉妬心を、レムリアは時折面白がりながら小言として漏らすのだ。
「それじゃあ、レムリア。君には小会議室を使ってもら……――」
「赤の国の方々とのお話が先です。私もそちらに同席します。
姫様お一人だと、その場の感情で物事を決めすぎですからね。他国からのお客人となれば、お茶会だけで済むわけがないでしょう?」
むむ、と口をつぐんだジストはバツが悪そうに頷き、訪れた一行を大会議室に誘導するよう従者に命じたのだった。
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