外は青白い空が広がっている。
のっそりと起き上がり窓を開けてみると、朝の潮風が赤い髪を優しく撫でた。

少し早めに起きたようだ。
懐中時計を開くと、まだ明け方といったところである。



夢の記憶を反芻する。
あの旅人は振り返らずに進めと言った。だがその心は失うな、とも。

(無茶言うよなぁ……)

鏡を覗き込むと、昨夜泣いたせいで目元がパンパンに腫れていた。クマも浮かんでいる。酷い顔だ。
しかし閉じこもっているわけにはいかない。
ハイネは冷たい水で顔を洗い、ビシ、と頬を叩いた。



「おや、早起きですねぇ。おはようございます」

新聞を取ってきたアンリが声をかけてきた。
まだ明け方だというのに、彼は既に起床していたようだ。
元の世界でもアンリが寝坊をした話は一度も聞いた事がないが、ひょっとしたらこの老人のような生活のおかげなのかもしれない。

「おはようございます、アンリ先生。
あの、ちょっと聞きたい事あるんやけど」

「えぇ、どうぞ」

「その……クレイズ先生のことで」

一瞬沈黙した後、アンリは頷いた。

「いいですよ。コーヒーでも飲みながら、いかがですか」

彼に手招かれ、まだ薄暗いリビングへと足を運ぶ。




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