尋常ではないハイネの様子。
気楽に構えていたカイヤは大慌てで震える小さな肩を支えに走る。
ハイネが事の顛末を涙ながらに報告すると、罪悪感を覚えたような顔でカイヤが恐る恐るカップを差し出した。
ミルクコーヒーの甘い香りが、憔悴したハイネの心に優しく染み込む。
「やっぱり、うちのせいで前の世界はおかしくなっちゃったのかな」
「どうしてそう思うんです?」
「うちについてこなければ、皆は傷つかずに済んだんじゃないかって、……思うんよ」
カップを両手で包み込む。
冷えた手のひらから熱が伝わってきた。
大切な仲間達が命がけで戦う中で、自分は平和な世界でのんびりと過ごしているという現実。
このカップの中身を飲む資格が自分にあるのかわからない。
「ハイネさんは、自分のせいでお友達を苦しめたと思っているようですけど。
……貴女が結んだ縁のおかげで掴んだ未来もあるはずです。
これは持論ですけど、歴史に正解なんてないんですよ。そこにあるのは結果だけ。
誰も答えなんか知らない。誰かが勝手に決めていいものでもありません。
誰一人として、貴女を責めることなんてできない」
カイヤは、そっと砂糖のビンをハイネの前に押し出す。
「さぁ、冷めないうちに。ぬるいコーヒーという悪夢が現実になる前に、おいしくいただいてあげてください」
それもまた未来ですよ、と彼女はイタズラっぽく笑うのだった。
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