「我が名はコーネル・ヴィント・オリゾンテ。碧の国、西の王だ。
皆、今宵はよく集まった。
遠きは赤の国ブランディアより来訪されたヒューラン王子とその臣下にも敬意を払おう」
口上を聞きながら立ち尽くすハイネの両隣で、ヒスイとヒューランが厳かに首を垂れた。
その姿を見て頷いたコーネルが、自身の足元にいた少年の背を押す。
「公の場での顔合わせは初めてだな。“これ”が碧の国第一王子、グラン・ヴィント=シュティレ・オリゾンテ。未来の王だ」
つややかな黒髪に海色の瞳の少年。グランと呼ばれたその子は、礼儀正しく頭を下げた。
「皆さま、今夜はお集まりいただきありがとうございます。
姉のアメリがご迷惑おかけしてます」
どっ、と観衆が笑った。
見た目よりずいぶんとしっかりした王子のようだ。
幼い王子の挨拶もそこそこに、コーネルは端的に締めくくる。
「心行くまで楽しめ。私からは以上だ」
挨拶の場を終えると、おもむろにコーネルがこちらへとやってくる。
もう一度ヒスイとヒューランは頭を下げた。ハイネもつられてペコリと会釈する。
「お初にお目にかかる。貴殿がヒューラン王子で間違いないな?」
「は。赤の国ブランディアの王妹ティルバの子、ヒューランと申します」
「わざわざ足を運ばせておいて何だが、どうにもアメリの奴が頑固でな。
今日まで事情を伏せていた俺も悪いが」
「恐れ多い。この場を頂けただけでも身に余る光栄です」
「貴殿らは臣下の者か?」
「あぁ、自分はそうですけど、この娘っ子はアメリ様の知人だとか」
突然会話に巻き込まれ心臓が跳ねた気がした。
コーネルがハイネに目を合わせる。
何度対面しても、やっぱり王族とのやりとりはハイネには重荷である。
「アメリの……? 友人か?」
「と、友達……ってほどの付き合いでもないんですけど、今日のパーティーに招待してくれたのはアメリ様で」
「あぁ、お前がアメリが言っていた者か。ちょうどいい」
――アメリがハイネの話をコーネルにしていた?
困惑気味のハイネに、コーネルは続ける。
「どうだ、一つ俺の手助けをしてみないか。
アメリの奴、俺達の話には返事すらしない。ひょっとしたらお前の言葉なら聞き入れるかもしれない」
閉じこもったアメリをハイネが連れ出せということらしい。
「そ、そんな、うち……いや私如きが役に立つとは……!」
「気休めだ。友人の声でも聞けば少しは気が晴れるだろうさ。
あいつはあんな性格をしているが、あまり城の外に出したことがない娘でな。
昼時に刹那共にしたお前との時間をとても喜んでいた」
そこまで言われてしまっては、このまま会わずに帰るのも忍びない。
ハイネは恐る恐る承諾したのだった。
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