何かを言う前にヒューランに手を取られ、そのまま会場の中央へと連れていかれる。
優雅な舞踏会の中心に吸い込まれ顔面蒼白になるハイネだが、気付いたらヒューランの動きに合わせて体が勝手に動いていた。

「う、うち、踊り知らんよ」

「何もしなくていい。俺がリードする」

先日見た時はなんとも影の薄い青年だと思っていたが、今のヒューランは――どこからどう見ても貴族然としている。

(かっこいいなぁ。王子様って感じ)

観察するように彼の顔を凝視すれば、急にヒューランは気まずそうに目を逸らす。

「あ、あまり見つめないでくれ……。調子が狂う」

「え? あぁ、ごめんごめん」

彼の手が少し熱くなってきたのを感じた。



一曲が終わり、踊っていた人々はゆっくりと散会していく。
ようやく解放されたハイネはフワフワした足を無理やり一歩退く。

「ヒューラン、なんかスゴい人やったん?
どこかのお坊ちゃまとか……」

「俺は、その……――」

「“殿下”~、なかなかサマになっとったで」

ヒスイの声がした。



――ヒューラン殿下。

赤の国ブランディアの和平派を率いるリーダー、ティルバの長男。
つまるところ本当に『王子様』だったのだ。

さらに言えば、今宵の宴自体がヒューランを歓迎するために開かれたものであり、ヒスイは彼の護衛としてこのカレイドヴルフまでやってきたというわけだ。

その目的はといえば、なんとアメリとの政略結婚の話をしにきたのだという。

「せやけど困ったことに、アメリ王女が部屋から出て来ないんやて。
ただのパーティーだと思っとったのに、政略結婚話の建前だってことを知ってエラい怒ってるんやと」

だから彼女本人がこの場にいないのだろう。

「ハイネ、すまなかった。無理やり踊りの相手をさせて。
本来はアメリ姫と踊る予定だったのだが、彼女が現れず……。
カレイドヴルフ側が俺のメンツを立てたくて躍起になっているのを見ていられなかった。
国賓に踊る相手がいないなど、向こうとしては致命的だからな」

ヒスイはヘラリと笑ってヒューランの肩を叩いた。

「ま、要は向こうの顔を立ててやったってことや。いやあ、ナイスタイミングやでお前。
殿下の相手を探すのに苦労しとってな」

ハイネが声をかける前にヒスイが忙しそうに何人かの相手をしていたのは、ヒューランの相手を探すためだったらしい。
いいように使われたことに内心ムッとしたハイネだが、すぐにアメリのことが心配になる。
久しぶりに父に会えると楽しそうにしていた彼女の姿。いざ城に来てみれば結婚相手を決められていたとは。
なんだか彼女が不憫に思えた。



ヒスイやヒューランと言葉を交わしていた数分の後、会場の視線が一斉にある方向へ向く。

――国王が現れたのだ。



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