唖然とした。
そこにいたのは知っている顔だった。

それは向こうも同じようで、思わず「なんでやねん」とお互いに呟く。

「ヒスイ兄ちゃんやんか!」

「おま、ハイネ!!
なんでここにおんねん?!」

「そっちこそ!!」

彼は要人と話していたようだったが、軽く断りを入れてハイネに歩み寄ってきた。

「ヒスイ兄ちゃん、貴族かなんかやったん?」

「いや、その……。
お前こそどっかのボンボンなんか」

「ううん、うちはアメリ王女に誘われてきただけの一般人」

「アメリ姫に?!」

そういえば肝心のアメリ本人がこの場にいない。一体どこにいるのだろう。
そしてヒスイに対しても疑問が生まれる。

「ヒューランは? おらんの?」

「あ~、あいつはちょっと、な。ハハハ」

「もう、隠してばっかり。全然わからんわ」

思わずそう不満が漏れたところで、会場の照明が暗くなる。
賑やかだった人の声が徐々に静まり、収まったところで、向こうに控えていた音楽隊が優美な旋律を紡ぎ出した。

「な、なに?」

「舞踏会の始まりってな」

そこかしこで、男女ペアとなった人々が音楽に誘われて体を滑らせていく。

「ハイネ、お前も踊ってこいや」

「えぇ?! 無理に決まっとるがな!!
踊れないし、相手もおらんわ!!」

「こういう場は踊って楽しそうに見せるのが礼儀っちゅーもんやで。
相手はまぁ、ほら、もうすぐ来るわ」

「はぁ?! いるわけ……――」

スッ、と横から手が差し出された。
一瞬固まってから、ハイネはその手の持ち主を見ると……――

「……ヒューラン?!」

礼服で身を包んだ彼がそこにいた。




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