「わからん! わからんぞぉ!!
巷の乙女達の流行りは一体どんなものだというのだ?!」
あれでもない、これでもない、と次々に持っていた服を傍らの侍女風の女性に突き渡す少女。
夏の日差しのような鮮やかな橙の長い髪をおさげにした、ハイネより少しだけ背の高い後姿だ。
彼女が身に着けている服は動きやすそうな代物ではあるが、店の外を歩いているような若い女性達とは違った気品を匂わせている。
「あの、アメリ様……。そろそろお時間が……」
「待て待てぃ!
まだ服が決まっていないのだ!!
せっかく久しぶりに父上にお会いするというのに、このような薄汚れた姿ではまた咎められてしまう!」
「ですから、外出用のドレスをお召しになってと……」
「ドレスは嫌だ! 動きづらくて敵わない! 剣が振るえないであろう?!」
「は、はぁ……」
侍女は大量の服の山を抱えてゲンナリしている。
立ち尽くすハイネとトキの存在に気が付いたのか、侍女はすみませんと頭を下げて傍らの少女を窘める。
振り向いた少女は、赤紫の瞳をこれでもかと見開き、慌てて衣服の埃を払って胸に手を当てた。
「これはこれは、美しいお嬢様方。
すまない、邪魔をしてしまっただろうか?」
「え……いや、大丈夫やけど……」
くいくい、と手が引っ張られる。
うん?とハイネはトキの背に合わせてかがむと、トキは耳打ちした。
「ハイネさん、その人“アメリ王女様”ですよ!
コーネル陛下のご息女です」
「ええっ?!
うわ、すみませ、うち、失礼な口を……!!」
きょとん、と首を傾げた少女――アメリは、真っ赤になって謝るハイネを笑い飛ばした。
「はーっはっは!! なに、案ずるな!!
別に不敬だなどと罵りはしないぞ!!
むしろ、私が失礼した。名乗らねばなるまい。
そうだ、私はアメリ。碧の国の第一王女だ!!」
「あああアメリ様! あまり軽はずみに名乗られては……」
「良いではないか! これも何かの縁だ!
お嬢様方、特に赤髪の麗しい君は私と同世代のようだな!
どうだ、ひとつ“こーでぃねーと”とやらを頼まれてはくれまいか?
私はこれから久方ぶりに父上にお会いするのだが、うっかり訓練着でここまで来てしまったのだよ。
このままではまた父上に王女らしくしろと叱咤されてしまう。
しかし困ったことに、私は世間の流行りに疎くてな。年頃の娘らしい服がわからないのだ。
もちろん、礼は弾むぞ!!」
今しがた自らの疎さを噛み締めたところだ。ハイネは困り果てて思わず頭を掻く。
王女だという彼女を無下にもできまい。
曖昧な態度でいると、傍らのトキが小さく腕まくりをした。
「任せてください。私は“オシャレさん”ですから!」
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