この世界のクレイズは、カイヤが14歳の時に病死した。
いまだに彼を死に追いやった病の正体はわからず、カイヤは父の死因を知りたいがために研究漬けの毎日。
クレイズを苦しめた病は、その当時、世間の重要な人物に次々と発症し、生還した者は誰もいないという。
黒の国の王家が途絶えたのも、末代の王族がこの奇病で死んだせいだという噂もある。
だからこそこの世界は、ハイネの世界よりも未来を進んでいるはずなのに、歴史が大きく脱線してしまったままなのだ。
時代を導く存在が、ここにはいない。
「アンリ先生。その、クレイズ先生が死んじゃった病気ってどんな病気だったんですか?」
「重度の高熱と、精神崩壊とでもいいますか。
……見ていられませんでしたよ。今際の“先輩”なんて。
あんなに仲のいい父娘だったのに、先輩はまだ幼かったカイヤさんを手にかけようとした。
今までの記憶なんて焼き切れてしまったかのように」
カイヤはその姿を忘れられず、ずっと心に背負っているのだろう。
自身を蔑むように薄く笑っていた先ほどのカイヤの顔は、己の無力を呪っているがゆえのものだ。
「結局、誰も寄りつかないような地下施設に閉じ込められた先輩は、そのまま発狂して死んでしまった。
治す方法もわからず、原因もわからず。
カイヤさんは片親しかいませんでしたから……きっと、僕が思うよりもずっと、辛い思いをしたはずです。
常日頃から何かしらの用事をこなして忙しそうに生きている彼女ですけど、たぶん、気を紛らわせたいんでしょうねぇ」
あぁ、やっぱり“カイヤ”なのだ。
ハイネが知る彼女と同じように、彼女は生きている。
「もし貴女が、先輩の死を解き明かす鍵になるなら……
どうかカイヤさんを救ってあげてはくれませんか?
あの死を解明できたのなら、彼女も、この世界も、その先へ進むことができるのだと……僕はそう思います」
夜も更けてきた。
アンリから歴史書を数冊譲り受け、ハイネは自らに充てられた空き部屋へ向かった。
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