「もうっ、ちょっと何ですかアンリ先生?!
私忙しいんです。これからテストの採点と明日の授業の準備と来週の会議の資料作りと……」
「絶対貴女に関係のある客人ですから。僕だけじゃ面倒みられません」
「アポなしでいきなり来る不躾な客なんて追い返してくださいよ!
相変わらずお人好しなんだから!」
別室で待機を命じられていたハイネが座って待っていると、扉の向こうからよく知った女性の声が響いてきた。
アンリに文字通り引っ張られてきた“彼女”は、眉間に皺を寄せてかなり不満そうな顔をしている。
「カイヤ先生!」
思わず立ち上がって名前を呼んでしまい、あっ、とハイネは口を押える。
不機嫌丸出しだった“カイヤ”は、今度は不審者でも見るような目つきに変わる。
「誰です?
私の教え子じゃないですよね?」
「は、初めまして! ハイネっていいます。
今日はその、この時計について話したくて……」
ハイネが差し出す懐中時計を見て、カイヤは数秒固まる。
彼女は着ていた白衣の上から自分の体をぺたぺたと触り、そして胸ポケットに入っているはずの所持品の感触を確かめて目を白黒させた。
「あ、アナタ、どうしてそれを……」
「クレイズ先生に貰った、って言えば……いいんかな」
「なっ……?!」
ようやく話を聞く気になったのか、カイヤはゆっくりとハイネの向かい側に腰を下ろす。
視線はハイネの顔を凝視したままだ。
後ろでアンリが扉の内鍵を締めた。
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